人生100年時代、到来。「人材力強化に向けた研究会」の会議とは

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人生100年時代、到来。「人材力強化に向けた研究会」の会議とは
2018/02/21 (水) - 07:00
鳥羽山 康一郎

経済産業省では、「人生100年時代」の到来を踏まえて、社会全体に人材の最適な配置が行われるためにはどうしたらいいか?の研究会を立ち上げています。一見大きな枠組みに思えますが、「人材配置」に目を向けると、SELF TURNの趣旨と密接な関係が。この「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」では、2つのワーキング・グループ(WG)でそれぞれのテーマを掘り下げ、議論しています。そのWGのひとつと、会議を取材してきました。

地方の「中核人材」を確保するために

WGのひとつは、「中核人材の確保・活用促進に向けた検討ワーキンググループ(中核人材確保WG)」。地方活性化と中小企業の生産性を向上させる柱が「中核人材」であるとして、生産年齢人口が減り、慢性的な人手不足をきたしている時代において中小企業をどう成長させるか、を研究しています。

取材したのは、WGとして第4回の会議となる2018年1月18日。毎回ゲストスピーカーがプレゼンテーションを行っているのですが、この日は「北海道共創パートナーズ」の代表取締役・堀口 新氏と、NPO法人ETIC.のローカルイノベーション事業マネージャーの伊藤淳司氏。両社とも地方の中小企業をいかに活性化するかに取り組んでいます。

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研究会の座長は、今野浩一郎 学習院大学名誉教授

地元銀行と連携し「ドアノック」を楽に──北海道共創パートナーズ

この日プレゼンテーションの第一弾は、北海道共創パートナーズ(HKP)の堀口新氏。社名の通り、北海道に拠点を置き道内企業の支援を行っている会社です。日本人材機構と地元の北洋銀行が連携して設立されました。

「HKPは、お客様の伴走者です」と堀口氏。「共通価値の創造を促す触媒──そう規定して活動しています。『共通価値』とは、地域・お客様(道内企業)・外部専門家・銀行のことで、それらの間にあって価値創造を促進させる役割を持ちます」

今、どこの企業も人材不足に苦しんでいますが、単なる採用によってではなく、まず業務量を適正化して一人あたりの処理量を増やし、それでも充たされない人員を不足分として採用するというアプローチを採っています。プロセスのなかではコンサルティングや採用代行なども受けもち、必要に応じて企業内部の人事部や経営企画部の代行的な機能も果たしています。

HKPの設立にあたり北洋銀行が50%弱出資していますが、その意味について堀口氏は「北洋銀行も『共創』を理念に掲げています。持続可能なビジネスモデル構築に向けての方向性が、日本人材機構と一致しました。融資拡大のみを図るのではなく、根幹から企業価値を上げていくお客様のニーズに応えています」と解説しました。そして、「北洋銀行への信頼が、『ドアノック』を楽にしてくれます」とも。日本人材機構だけではカバーしきれない、地域に根ざしたアプローチが可能になりました。

2017年11月に本格始動し、2カ月でおよそ80社から問合せがあり、現在は10社程度のプロジェクトが進んでいます。「ニーズは高い」と堀口氏は語りました。

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株式会社北海道共創パートナーズ 堀口 新 代表取締役社長

「地域コーディネーター」の発掘と育成に注力──ETIC.

NPO法人ETIC.は、日本人材機構ともパートナーシップを組みローカルイノベーション事業に取り組んでいる団体です。地域で新しい仕事をつくり出す「右腕」型人材の発掘や育成も行っています。これは、「地域コーディネーター」と呼ばれていて、地域の企業や自治体などと意欲のある人材とをつなげる存在です。

「地域コーディネーターによって地域で起業する力が高まります。活力を各地で呼び起こし、日本の活力につなげていくという挑戦でもあります」と語る伊藤氏。もともとインターン学生と企業をつなぐ活動を行ってきた同NPOですから、若い力を地域に活かすためのノウハウや知見は豊富です。

また、地域の中小企業が都会からの右腕人材を受け入れる際、失敗する3つのケースを挙げました。
1.経営者が受け入れた右腕に期待をしていない
2.経営者が戦略や仮説にコミットせず右腕に丸投げ
3.やってきた右腕が受け身だったり頑固だったり

これらは、地域コーディネーターが間に入ることですべて解決されます。地域企業の問題や課題を明確化して、プロジェクト(新しい仕事)を設計。そして都市部に対して広報や集客活動を行い、適切な人材をピックアップ。プロジェクトにマッチングさせて、推進力を高めます。 伊藤氏いわく、「各地域に『まちの人事部』をつくることで、企業の問題や課題が明確化されます」。「まちの人事部」とは、中小企業の人事部を代行する機能を持った存在で、地域コーディネーターがそれを務めます。現在、全国70近い地域で地域コーディネーターが活躍していますが、目標は300地域に置いています。

また、地域コーディネーターと地域企業とが連携して、都市部の若手社会人を対象とした「地域イノベーター留学」という試みも実施しました。現地のフィールドワークと東京でのワークショップを組み合わせ、課題解決・新規事業提案を行うものです。実際の事業として動いている事例もいくつか紹介されました。
地域コーディネーターとして活躍するためには、「ビジネスセンスがある」「コミュニケーション力が高い」という資質のどちらかが必要であることも付け加えました。

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(左)NPO法人ETIC. 伊藤淳司 ローカルイノベーション事業部 マネージャー

喫緊の課題「人材力の強化」はどう解決?

経済産業省がこの研究会を立ち上げるにあたり、その背景を述べています。いわく「第四次産業革命等の急激な環境変化の中で、我が国産業が持続的に成長/人口減少という構造的問題に対応していくためには、基盤となる『人材力』の抜本強化/企業側の『人材像の明確化』は喫緊の課題です」

それに対応すべく挙げられたのが、
1.リカレント教育の充実
2.(特に大企業から中小企業等への)転職・再就職等の円滑化
3.必要とされる人材像の明確化や確保・活用
4.産業界として果たすべき役割などをパッケージで検討するためのワーキング・グループ

の4項目。上記の「中核人材確保WG」は4の研究会のひとつ。もうひとつは「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(人材像WG)」というものです。 1月29日に、研究会の2回目会合が開かれましたが、そこでは後者の人材像WGとリンクするプレゼンテーションも行われました。

「終わりのない教育」を実現するインターネット学習──スクー

リカレント教育の充実は、研究会が掲げている対応策のひとつ。インターネット学習を活用してこの推進を図っているのが、株式会社スクーです。会議では代表取締役社長の森健志郎氏がプレゼンテーションを行いました。

「日本は、社会人が学ばない国。これを打破するためにスクーを立ち上げました」と森氏。社名のスクー=Schooは、SCHOOLからLを取ることで「終わりのない教育」を表しています。スクーは、スタジオからインターネットの生放送の授業を行っているのですが、「今までのeラーニングのかっこわるさに辟易していた」という森氏のこだわりによって生まれたものです。チャットウインドウも付け、他の生徒の共感や感想をリアルタイムで表示。先生への質問もできます。学習ジャンルはデザイン、プログラミングや文章術からビジネス、自己啓発や健康、キャリア・生き方といった幅広いもの。社会人のリカレント教育ならではのバラエティです。「現在は創造性やイノベーションなど社会トレンドに沿うテーマが好調」とのこと。

会員は30万人を突破し、右肩上がりです。「終身雇用に疑問を持ち、学ばねばという機運が盛り上がってきている」と森氏が語る通り、学んで人生を変えたい人のニーズに応えています。「スクーはサービスをつくるのではなく、社会システムをつくる会社。ソリューション会社を目指しています」。B to C事業を基盤として、B to Bを視野に入れる戦略。「今年は勝負の年」と森氏がいう通り、学びによって新たな人生を発見し、より優れた人材力を増やすための機関となっていくことでしょう。

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(中)スクー株式会社 森 健志郎 代表取締役社長

地域の中小企業が事業承継に成功するには──日本総合研究所

事業承継は、多くの企業が抱えている重大な課題です。都市部より地域の中小企業の方が、さらに深刻といえるでしょう。後継者不足によって廃業してしまうケースも多くみられます。この課題を解決するため、株式会社日本総合研究所で地方創生を手がけるグループが発案したアイデアを、船田学シニアマネージャーがプレゼンテーションしました。

「それは、『事業継承カンパニー』です。自治体、商工会や商工会議所、地域の金融機関、地域の中核企業などが出資をして設立します。この会社はU・I・Jターンの人材を採用して、経営人材や中核人材として中小企業へ派遣します。そうやって派遣された人材がやがて経営を引き継ぎ、後継者として育っていくというプランです」

派遣される人材はあくまでも事業承継カンパニーに籍を置いていますから、派遣先と反りが合わない場合は、別の人材を送り込むことも容易です。また、地域の企業で働きたいと考えている人材にとっては、現地のハローワークなどに行かなくとも事業承継カンパニーが間に立ち、仕事先を見つけてくれるわけです。岩手県陸前高田市で「まちづくり会社」を設立し、モデルケースにする計画も進行中といいます。

また、これと併行して「地域出身の若者をSNSで囲い込む」施策を新潟県燕市で行っています。高校卒業時にメールアドレスを全員に登録してもらい、FacebookやTwitter、LINEといったSNSから地域情報を頻繁に発信。都市部へ進学・就職したとしても中長期的なスパンで燕市に戻ってきたくなるよう、つながりを絶やさないようにします。人材募集イベントを地元のショッピングセンターでお盆時期に開催するなど、モチベーションを与え続けています。

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日本総合研究所 船田 学 シニアマネージャー

働き方改革と整合性を取りながら社会人基礎力を付ける

会議では、プレゼンテーションの内容も踏まえながら、活発な意見交換が行われました。リカレント教育については、「何を学ぶのかを考えるべき」としながら、社会人として身に付けておくべき基礎力をパソコンのOSにたとえ、常にアップデートしておくことの大切さを指摘。その上に積み重なるべきスキルはアプリのようなもので、最新版のダウンロードが必要であるという意見も聞かれました。

企業内部の意識改革、複業の重要さ、プロボノなど、働き方改革の流れとも連動していくことで、成長戦略とダイレクトに結び付くことが期待できるでしょう。
研究会もワーキング・グループも、まだまだ進行中。近い将来、地域を舞台に興味深い出来事や変革が起こったら、ここでの研究が実を結んだのかもしれません。

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(中)日本人材機構の小城武彦も委員として参加
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活発な議論を今野座長は「乱打戦」と表現し笑いを誘っていました

 

鳥羽山 康一郎

鳥羽山 康一郎

ライター/コピーライター/プランナー

文字を通じてのコミュニケーションを真ん中に置きながら、映像、画像などにも手を出しつつ活動。数多くのインタビューを通じ、その人の数だけの生き方に感動し感化される。自身もオフィスを持たない生き方を模索している。

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