“職場での生活の質”を再定義する日本初のコーポレート・コンシェルジュサービス
久保田 一美
2018/05/10 (木) - 07:00

欧米ではあたりまえの文化である、働く時間の長さではなく” 職場で過ごす時間の質”を重視する「Quality of Working Life」。生産性向上の取り組みのなかで、従業員のプライベートをサポートし、日本初の「コーポレート・コンシェルジュサービス」を提供するマニヤン麻里子氏にお話を伺いました。

起業へのセルフターンは原体験から

働き方改革を推進するフェーズで、企業にとって重要なことの一つは生産性向上。所定労働時間の見直しや定時退社という切り口ではなく、「ヒューマン=人」を大切にする視点からの生産性向上を実現。今回は、株式会社TPO代表取締役 マニヤン麻里子氏が日本初の「コーポレート・コンシェルジュサービス」を提供開始されるまでのセルフターンと、その事業への想いをインタビューしました。

麻里子さんは現在、フランス国籍の夫と2人のお子さんをもつ女性起業家。ライフイベントである結婚、出産、子育ては前職である外資系の金融企業に勤めているときでした。当時は夫であるマニヤン氏と協力するも、裁量労働制度を導入した職場で、フルタイムで働く毎日は、猫の手も借りたい日々。不安も募っていたといいます。

ベビーシッターや家事代行などアウトソースの力を借りて過ごすも、常に時間に追われ、1日1日を乗り切るのに精一杯でした。自分と同じような境遇の従業員は、きっと同じような課題をもっているに違いない。また、職場には外国籍の同僚も沢山いましたが、日本での生活全般にフラストレーションを抱えて帰国していくのを目の当たりにし、成果の求められる職場の環境では、「多様な従業員のプライベートまでサポートできる何かが必要だ」と痛切に感じるようになりました。

また、学生時代に学び、働いたこともあるフランスや欧米ではあたりまえとして浸透している「Quality of Working Life=職場における勤労生活の質」の文化。労働時間が短くても生産性が高い国々のライフスタイルを調査したところ、時間の「長さ」ではなく、「質」を重視し、創造的で革新的な企業が職場にコンシェルジュサービスを導入して、従業員のプライベートに寄り添えるサポートをしていることに着目しました。

そして、会社員を辞め、国内に新しいライフスタイル文化の風を吹き込むためと、自身の夢であった起業家の道を、日本初の「コーポレート・コンシェルジュサービス」の提供をすることで2016年7月よりスタートされました。

個人の幸せの積み重ねの先に会社の成功がある

一般的に「コンシェルジュ」と聞くと、ホテルでのコンシェルジュをイメージする方が多いかもしれませんが、今回伺った「コーポレート・コンシェルジュ」は企業内に常駐し、多様な従業員の様々な要望に応えるだけでなく、コンシェルジュデスクの存在が学びや交流などの新しいコミュニケーションの場を生み、結果、生産性向上をもたらしてくれるというものです。

日本ではまだ馴染みがないかもしれませんが、グローバル市場では、Fortune’s 100 Best Companies to Work For(働きがいのある会社ランキング) の100社中32社が、企業内でコンシェルジュサービスを従業員に提供(*1)。フランスでもCAC40企業の50%以上が同サービスを導入し、女性の労働市場増加に効果を上げるなど、その価値は実証済み(*2)。

サービス内容を伺うほどに、「こんなサービスがあったら嬉しい」というものばかり。麻里子さんの目指す働き方改革と生産性向上は、ライフスタイル変革。そして、「個人の大切な時間を犠牲にしての会社の成功があって、その先に個人の幸せが享受されるのではなく、いま、この場で働く個人の小さな幸せの積み重ねの先に、会社の成功がある」という日本の社会なのです。

サービスが提供すること、実現すること

働き方改革を推進する企業が増えている今、経営者や人事担当者、推進委員にとって知りたいことは長時間労働の是正ではなく、生産性向上のための具体的な施策でしょう。「生産性を上げて」と言葉でいうのは簡単でも、実際の施策に課題を抱えている企業は多いものです。そこで働く社員が「幸せであること=ハピネス」。これが組織活性化の原動力と捉え、限られた時間の中で多様な人材が最大限に能力を発揮でき、生産性が向上するという考え方をもとに、株式会社TPOはサービスを提供しています。

企業には働きながらも未婚・既婚に関わらず業後は自分だけの時間を大切にしたい方、資格取得や学びをしたい方、子育てや介護中の方、障害をもつ方、外国籍の方、ミレニアル世代、定年の延長化によるシニア層など、多様な方々がいます。100人いれば、100通りの働き方、生き方があり、画一化された会社の制度や風土では従業員のハピネスは生まれません。逆に会社で過ごす時間の中にハピネスがあるから、会社に行くことが楽しくなり、会社を辞めたくなくなり、会社へのコミットメントが向上すると麻里子さんはいいます。

仕事の集中力やモチベーションは職場内のことはもとより、職場外での様々なことがらから良くも悪くも影響を受けることが少なくなく、それらを解決することに時間を割かれることが多いのではないでしょうか。

コーポレート・コンシェルジュは、具体的には、企業で働く人の職場で過ごす「時間の質」を大切にするコンセプトで、次のようなサービスを提供しています。

■RELEASE(情報収集、手続き、心配事からの解放)
各種手続きの代行、ギフト・お花の手配、教育関連相談、ベビーシッター・家事代行の手配、育児・介護相談、バイリンガルサポートなど

■RECHARGE(エネルギーとモチベーション充電)
旅行のプランニング、海外旅行先の観光手配、記念日などのレストラン予約、ヨガ・スポーツジムの情報収集、マッサージ、ネイル・ヘアメイクなどの予約など

■ENGAGE(学びと交流の場づくり)
ワークショップの企画と運営(デザインシンキング、マインドフルネスなど)、チームビルディングのための運営サポート、ケータリング、部署を超えた交流イベント、懇親会手配、など

これらは一例ですが、こうした日々の小さな解決が、小さなハピネスに繋がり、従業員は目の前の本来の仕事に集中することができます。サービスの一部は一見オンラインでも対応できそうな内容ですが、コンシェルジュが常駐し、社員の困りごとに寄り添いながら解決していくことにこそ価値があります。導入した企業は生産性の向上はもちろん、イノベーションを生み出し、やがて「優秀な社員の確保」、「離職率の低下」という効果も期待できるようになるのです。

また、今後日本の地方企業では人材不足という避けられない課題が迫っています。現存の従業員の生産性向上だけでなく、最大限に気持ちよく個人の力を発揮してもらう環境を企業がいかにつくるか? その解決の打ち手としてコンシェルジュサービスの可能性は地方へも広がります。

コンシェルジュの拠点がハピネス創出の場

株式会社TPOのコーポレートカラーは、「幸せの黄色」。企業のコンシェルジュ拠点が、太陽のような陽だまり、笑顔、そしてハピネスをお届けする場でありたい」という麻里子さんの想いが込められています。

日本の本格導入の前に試験導入した1500人?6000人規模の製薬会社やIT企業など3社のうち、本サービスを利用した対象者からの満足度はほぼ100%。未婚の方も既婚の方であっても、プライベートの時間を充実させる新しい価値を受け取ることにより、仕事への集中力が高まったという声が多いそうです。

一度利用し、ハピネスを感じた方はサービスのリピーターとなります。そのコンシェルジュを支えているのが、リサーチスペシャリストの存在です。情報収集や予約手配などであれば、世界中どこに居ても仕事はできる。バックオフィスで働くスペシャリストは、場所や時間にとらわれず働ける子育て中の主婦から、夫の赴任などで仕事を辞めざるを得なかった方など。フランス、シンガポール、マレーシア、オーストラリアなど、海外にスペシャリストがいて、多様な人材の雇用を創出していることも注目するところです。

「一度きりの人生のなかで、大切な家族の存在と同じように従業員と一緒に働き、ハピネスを感じる職場をつくりながら成功したい」という想いが根底にある麻里子さんの生き方。 「当社の理念は、“情熱”“創造”“ヒューマン”“インクルージョン”“ハピネス”です」と語る彼女の熱い想いと笑顔が、これからの日本社会を少しずつ変えてくれるでしょう。

(*1)FORTUNE (March 28, 2016)

(*2)株式会社TPO独自調査

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