魂を揺さぶるような美しく格好いいクルマのデザインをめざして -マツダ株式会社 中牟田泰氏

マツダトップ画像
cat_career
魂を揺さぶるような美しく格好いいクルマのデザインをめざして -マツダ株式会社 中牟田泰氏
2017/05/12 (金) - 08:00
寺本 亜紀

子どもの頃からカーデザイナーを志していた中牟田泰さん。きっかけは、父親が買ってくれたミニカーでした。人を感動させるクルマを創りたい、その夢を実現するためにマツダ株式会社に転職。数々の賞を受賞します。今回、カーデザイナーのやりがいや、広島を拠点とするマツダならではのクルマづくりについて伺いました。

カーデザイナーとしての夢を実現させるためにマツダに転職

小学2年生の頃から、カーデザイナーになろうと心に決めていました。父が「シボレー コルベア モンザ」のミニカーを買ってくれたのがきっかけです。ドアの開き方からヘッドランプの付き方まで、面白いものが詰まっていてワクワクしました。今の時代でも「すごい」と思えるデザイン。こんなに人を感動させられる仕事があることを初めて知りました。
その夢を叶えるべく、1977年地元・福岡の九州産業大学の芸術学部工業デザイン科に進学。専門的な知識だけでなく、陶芸や染色、写真などさまざまな「モノづくり」を体験できたので、これが今の自分の強みになっていると思います。

1981年、関東の大手自動車関連会社に就職して、念願のカーデザイナーとして量産車のエクステリアデザインを担当していました。でも、新しいアイデアやデザインを提案してもなかなか採用されない。ここにいても自分が本当にやりたいデザインができないのではと感じていました。それで、子どもの頃から思い描いていたショーカーを創る夢を実現するためには、マツダに転職するしかないと思ったんです。
私の実家は福岡、妻の実家は山口。子ども2人を連れて家族で関東から帰省するのは大変だったので、できれば地元に近い企業に勤めたいという思いもありました。マツダは広島が拠点なのでそれも魅力でした。妻は、私が悩む姿を見ていたので、背中を押してくれました。

サムネイル
東京出張時にデザインの打ち合わせをする中牟田氏

1987年、マツダに入社することになり家族で広島に移り住みました。早いもので、広島での生活はもう30年になります。
広島は食べ物がおいしいですね。買い物や食事は、八丁堀や紙屋町に行けばいろいろと揃っているので便利です。電車やバスの公共交通網も整っています。子どもが幼い頃は、家族で宮島や尾道などにも出掛けました。
広島の人の気質は、腹を割って話せばわかりあえる。こちらが本音で話せばそれに答えてくれる。そういう印象です。だから長く付き合える人が多いのかもしれません。

モノづくりに対して真摯に向き合うマツダの精神や風土

マツダの「デザイン課」に配属され、最初に携わった仕事はスポーツカー「3代目RX-7」のエクステリアとインテリアのデザインでした。マツダはモノづくりに対して真摯に向き合い、理想を追求する精神が強い。良いと思うものは部門の壁を越えて全社的に取り組み、何事にもチャレンジします。そんなマツダの風土を肌で感じました。
例えば、チーフデザイナーがデザインへの想いを設計者たちに伝え、エンジニアや生産部門とその想いを共有しながら共に理想の形へと創り上げていきます。マツダに転職して本当に良かったと思えました。
もしかしたら、これは広島の土地柄も関係しているのかもしれません。広島カープファンのように、みんながひとつの目標に向かって一致団結する、こうした広島の人たちの気質が優れたデザインのクルマづくりにも活かされているのでしょう。

マツダに入社して5年程経った頃、1992年から1995年までの3年間、アメリカの西海岸にある北米マツダのカリフォルニアデザインスタジオ(Mazda North American Operations 略称:MNAO)に駐在することになりました。もちろん家族も一緒です。
海外へ出て視点を変えてみると、当時の自分のレベルがよくわかりました。日本のようにグラフィックデザインだけでは、国土が広いアメリカでは通用しません。このときに、スケッチの二次元から立体的な面白さをデザインする「立体構築」を学びました。
人にも恵まれて、アメリカ駐在時の上司には、マツダの素晴らしさ、クルマに対する思い、情熱的な考え方や思想などを教えてもらいました。 このアメリカでの経験が今、とても役立っていると感じています。

カーデザイナーとしてのやりがいや喜び。そして難しさ

サムネイル
2015年4月、世界最大規模のデザインイベント「ミラノサローネ」にて。 新型「マツダ ロードスター(MX-5)」と「Bike by KODO concept」

カーデザイナーの仕事とは、わかりやすく説明すれば、お客様が一目見て欲しくなる、運転したくなる、そんなワクワクドキドキするようなクルマの外観やインテリア、色、素材を創造することです。
自分がデザインしたクルマを笑顔で運転しているお客様を見たときには、頑張った甲斐があったと嬉しくなりますし、やりがいを感じます。 一方、カーデザイナーとしての難しさもあります。

クルマのデザインは進化するものなので、常に学ぶ姿勢が必要になります。先進技術も進んでいるので、少し先の未来を予測していなければインテリアのデザインもできません。
例えばバンパーの形状ひとつにしても法規的な規制があるので、法規や安全基準にあわせてクルマのデザインも変わります。
単にクルマの形を考えるだけではなく、企業として安全や地球環境に配慮しつつ、理想とするデザインを創り上げていくことがカーデザイナーの使命です。

2011年にデザイン本部アドバンスデザインスタジオ部長に、2016年4月にデザイン本部長に就任しました。数々の賞もいただきました。
2016年には新型「マツダ ロードスター(海外名:Mazda MX-5)」がワールド・カー・アワーズ主催の「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。特別賞のひとつである「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」も日本車として初めて受賞しました。1車種によるダブル受賞は、同賞が創設されて初めてのことです。この賞は、バリュー、安全性、環境性、コンセプトなどの6項目を基準にして、世界23カ国、73名の自動車ジャーナリストの投票により選ばれます。とても名誉なことです。

サムネイル
チーフデザイナーとして開発した3代目「ロードスター」

チーフデザイナーとして携わった3代目「ロードスター」は、2005-2006「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。
どのクルマにも思い入れがありますが、なかでも2010年に発表したコンセプトカー、「マツダ 靭(SHINARI)」には特別な想いがあります。
当時の直属上司であったデザイン本部長、前田育男(現、常務執行役員)と共に作り上げたクルマで、それまでとは異なる革新的なデザインテーマ「魂動-Soul of Motion」を前面に打ち出したマツダのデザインフィロソフィーといえるものです。私たちはこれを「デザイン・ビジョン・モデル」(理想とするデザインのモデル)と呼んでいて、その後のマツダのカーデザインの原型となっています。

サムネイル
コンセプトカー、「Mazda RX-VISION」

2015年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー、「Mazda RX-VISION」は、「魂動-Soul of Motion」をもとに美しいスポーツカーの造形に挑み、次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載したマツダの夢を表現したモデルです。このクルマは2016年1月に、フランス・パリで開催された第31回「Festival Automobile International(国際自動車フェスティバル)」において最も美しいコンセプトカーに贈られる「Most Beautiful Concept Car of the Year賞」に選出されました。

マツダは今、大きな変革期。日本の美意識やモノづくりを復権

サムネイル
2013年「アクセラ(Mazda3)」世界同時発表でのデザインプレゼンテーション (オーストラリア)

マツダは今、大きく変わろうとしています。2015年4月にマツダのコーポレートビジョンが新しく変わりました。「私たちはクルマをこよなく愛しています。」この一文で始まります。それは、私たちが理想とするクルマを創り出していくための改革をしているからこそ表明できることなのです。
自動車は工業製品で、大量生産の商品です。だからこそ、一人ひとりの心を揺さぶるデザインにしたいという想いが私たちにはあります。
それを象徴するのが、「CAR as ART」クルマはアートというマツダの考え方です。
会社全体がモノづくりに対して、職人やアーティストの意識を持つ。マツダはそれをめざしています。日本の美意識やモノづくりのすごさを復権させたい。会社全体でそうした気概や風土が生まれています。これが海外でもマツダのデザインが評価され、受け入れられている要因のひとつではないかと思っています。
海外のプレミアムメーカーの方々に「マツダのデザインはいいね」と言われると、心から誇りに思います。

クルマは街を走る景観のひとつ。だからこそ美しさを極めたい

サムネイル
スケールモデルを削る作業を行う中牟田氏

私が子どもの頃は高度成長期でした。技術の革新やユニークなデザイン、さまざまな商品が街中にあふれていて、街がとても活気づいていました。
今の若い人たちは、その頃に比べて「本物」を知る機会が減っているような気がします。だからこそ、日本や広島を誇れるような「本物」や「美しいもの」を表現しなければならない。そう感じています。
単なるクルマのデザインだけではなく、心が揺さぶられるような価値を作りたい。日本本来の美しさを追求し、表現していきたいんです。
クルマは街を走るものなので、景観のひとつになるわけです。最近では、箱型のクルマが増えていますが、美しく格好いいクルマも走ってほしい。
欧州のクルマのデザインに負けないくらい見ただけで人の心を震わせるような格好良くて美しいクルマを創り出したい。クルマを単なる移動の乗り物と考えずに、乗って楽しいものにしたい。そう思っています。
人生や心を豊かにするためには、今後ますます情緒的な価値が重要になってくるのではないでしょうか。
2020年にマツダは100周年を迎えます。これからも私たちはお客様に情緒的価値や意味的価値を提供していきたいと考えています。
個人的には、これまでの経験を活かして、工業デザインをめざす若いデザイナーの育成や教育なども今後行っていきたいですね。

サムネイル

マツダ株式会社 デザイン本部長 兼 アドバンスデザインスタジオ部長

中牟田 泰さん

カーデザイナー。福岡県出身。九州産業大学 芸術学部 工業デザイン科卒。1981年大手自動車関連会社に就職。量産車のエクステリアデザインなどに携わる。1987年ショーカーを創る夢を実現するため、広島を拠点とするマツダ株式会社に中途入社。カーデザイナーとして数々の賞を受賞する。現在は、デザイン本部長として指揮を執る。家族は、妻と子ども2人。

プロフィール写真/寺本亜紀

寺本 亜紀

キャリアコンサルタント/2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)

企業の従業員の方や個人の方に、対面や電話でキャリアコンサルティングを行っています。キャリアビジョンメイキングやストレスマネジメントなどのセミナーも開催。企業の社員研修用教材(セクハラ・マタハラ・パワハラのハラスメント予防、メンタルヘルスケア、ストレスチェック、新卒採用、ダイバーシティ、CSRなど)の企画・制作。ライター・編集者として、大手出版社や大手教育出版社の特集記事も担当。
映像翻訳家(字幕・吹替)、翻訳学校講師としても活動中。

このエントリーをはてなブックマークに追加

FEATURE

特集

サムネイル
サムネイル
サムネイル