田舎暮らしが幸福度を上げ、人生を変えた ─長野県白馬村 田中麻乃氏

main
cat_local
田舎暮らしが幸福度を上げ、人生を変えた ─長野県白馬村 田中麻乃氏
2017/10/30 (月) - 08:00
鳥羽山 康一郎
このエントリーをはてなブックマークに追加

スノーリゾートとして名高い長野県白馬村。田中麻乃氏はペンションを営むためにご夫婦で移住し、自身は社労士として活動するかたわら観光を活性化させるための会社も立ち上げた。白馬村が抱える問題や村の将来を見据えた様々な活動を行っている。さらに2017年には村議会議員選にも出馬して当選。移住後4年でなぜ大きなステップを踏み出し得たのか、そのバイタリティの源は何か、お話をうかがった。

スキーで青春時代を過ごした思い出の土地へ

田中麻乃氏は沖縄県那覇市生まれ。地元の高校を卒業後、中央大学法学部に進んだ。サークル活動はスキー。
「沖縄育ちなので、沖縄ではできないことをやろうと入部しました」と語る。大学時代はシーズン中ずっと雪山にこもってスキーに明け暮れた。白馬の岩岳で開かれた学生スキー大会にも4年連続出場。現地のスキースクールにも所属経験がある。
時を経て、スキーに浸って青春時代を過ごした白馬へ移住したわけだが、そこに至るまでには紆余曲折があった。
「大学卒業後、大手製薬会社を経て医療法人に転職しましたが、経営側と従業員側の板挟みに遭い『何のために働くのか』ということを考え始めました」
それが契機となり、社会保険労務士の資格を取得し社労士としてのキャリアを関西でスタートさせた。「人」にフォーカスを当てた企業経営や創業支援などを幅広く行う。そして2013年、白馬へと移住。
「夫の夢だったペンションを経営するためです。私が青春時代を過ごした思い入れの深い土地でもありましたし」と白馬に決めたいきさつを語ってくれた。
田中氏はペンション経営の傍ら社労士事務所を開業し、村内唯一の社労士として地元企業の相談にも乗るようになった。そこで直面したのは、白馬が抱えている深刻な問題だった。

通年雇用を白馬に根付かせるための、「白馬ギャロップ」

スノーリゾート地には「グリーンシーズン」という言葉がある。「スノーシーズン」の対語で、いわゆる「雪のない季節」のことだ。田中氏は白馬に来て、このグリーンシーズンとスノーシーズンとの落差に驚いた。
「白馬は豪雪地帯ですからスキー場はゴールデンウィーク頃まで開いていて、スノーシーズンは比較的長いんです。インバウンドのお客さんも増え、とても忙しいのですが、グリーンシーズンに入ると来客数は急激に減ります。ですからホテルなどの観光業は、労働力を短期的なアルバイトに依存しています。季節雇用に偏りすぎているんです」
季節で人が入れ替わるから、人材が定着しない。また、季節雇用のため子育て家庭の父母がアルバイトの掛け持ちで生計を立てているケースもある。ぜひとも白馬の企業に通年雇用を根付かせなければ、との思いが強まった。村おこしの任意団体「百馬力」に加わり、さまざまなプロジェクトを行う。その活動が八十二銀行の目に留まり、「ALL信州観光活性化ファンド」からの投融資を受けることとなった。このファンドは名前の通り県内の観光産業発展を支援する目的で設立され、地域経済活性化支援機構(REVIC)のサポートを受けている。その支援の受け皿として「白馬ギャロップ株式会社」が設立されて、代表取締役社長に田中氏が就任した。2016年4月のことだ。

01
白馬で開かれた国体にて、2人の息子たちと。夏はマウンテンバイクで駆け回る。

「オシャレな白馬」を実現した村おこし活動

「通年で集客ができる村にしていくことが、白馬ギャロップの大きな目的です。そのためには村として総合的なブランド力を高めていかなければ」と田中氏は話す。グリーンシーズンに訴求したいアクティビティとしてはマウンテンバイク、トレッキング、気球などがあるが、認知度が不足しているため吸引力も弱かった。世界に目を向けてみれば、ウィンタースポーツで賑わう観光地はどこも自然豊かな観光資源を活用して、通年で人が集まるリゾートとなっている。その事例を活かしたい。目玉になるのは、宿泊と飲食だ。
白馬村内にある宿泊施設はおよそ700。その大半は民宿やペンションで、高級志向の顧客が満足できる施設が少ない。白馬ギャロップでは、後継者に悩んでいる宿泊・飲食業者から施設を借りたり購入したりして、時代に合うように改装。賃貸あるいは直営といった形で新たな経営をスタートさせる。2016年12月には八方尾根スキー場に直営店「LUCE(ルーチェ)」を開店。和牛をはじめ地元のジビエ料理、バルやカフェメニューなどが豊富で、「オシャレな白馬」のイメージを牽引している。インバウンド需要も強く意識しており、外国人旅行者からも好評だ。
白馬ギャロップの活動は不動産投資も生んだ。LUCEの入居するホテルはコンドミニアム形式。長期滞在する外国人に向けて建設されたものだ。ほかにも行政や金融機関と連携しながら、観光産業の活性化を図っている。

02
八方尾根のLUCEにて。京都から義父も移住し、現在は5人家族。

ご近所の動静がわかる地域限定SNSを活用

白馬村住民の通年雇用を推進するためには、村内におけるコミュニケーションも重要となる。人手が必要となったら、今までなら求人広告を地方紙へ出稿したりハローワークに募集を掲示したりといったアナログな手法がメインだった。しかし、観光客に左右される宿泊業や飲食業では急に人手がほしいという状況もしばしば発生する。そんなとき、近所の人たちとすぐにやりとりできるプラットフォームがあれば便利だ。田中氏は、SNSの活用を勧められた。
「白馬村の総合計画策定に関わってもらったコンサルタントの方に、『マチマチ』というご近所SNSを教えていただいたんです」
マチマチは一定のエリア内のみでメッセージをやりとりするSNSで、ご近所情報が迅速に集まるのが特徴。突発的な求人にも対応できる。さらに、数多く開催されるお祭りやイベントの情報も村全域に流すことが可能だ。集まった情報の中から観光的に引きの強いものを外部に発信し、地域PRにつなげられるという期待もある。
「でもはじめは、コメントやお勧め情報を投稿すると、見られたくない人にも見られてしまうから……という狭い村ならではのためらいがありました」
田中氏はそう言って苦笑するが、ご近所SNSは移住者にとっても便利な存在だ。知っておくべきことや最近の動向など、生きた情報をまとまって見ることができる。そして、外からの新しい情報やノウハウなども交換できる。地域に根ざしたコミュニケーションがそこで盛り上がれば、活性化はより進行する。

さらにステップを踏み出し、より白馬のために

2017年4月、田中氏の人生がまた大きく変わった。白馬村の村議会議員選挙に出馬したのだ。立候補にあたり、ファンドとの契約の関係で白馬ギャロップは退社。社労士の業務を通じて知り合った「熱い」仲間たちと選挙戦を戦い抜き、当選を果たした。仕事に関連している動画や写真をネットで流し、若い世代に選挙を身近に感じてもらえる選挙活動が奏功したと田中氏は言う。そして、その仲間たちとともに設立した「株式会社GOAT」に取締役として参加。アウトドアツアー企画、写真や映像の制作、イベント企画や地域ブランディングなどのプロデュースも行う会社だ。
「情熱とアイデアにあふれる仲間たちで、将来楽しみな会社になると思います。私にできることは全力で応援したいです」
地域興しの推進力は、情熱を燃やすことで得られるエネルギーだ。地元生まれだけではなく、田中氏のような移住者もその燃料となる。彼女は「何のために働くのか、自分はどのように生きたいのか、自分の幸せとは何か」をしっかりと考え、次の一歩を勢いよく踏み出した。しかし、移住に不安はなかったのだろうか。
「移住したら何とかなります。私も移住した4年前のペンションオーナーから、今はまったく違う立場にあります。とにかくやってみましょう」
力強く言い切る田中氏の話の中には、「人生はジェットコースター」というフレーズも登場した。上下左右に揺さぶられながらも確実な軌道を確保していなければ、ただの無茶だ。一本通った芯を持っていれば、その乗り心地はたまらなく楽しいものとなるだろう。
「その土地ならではのよさを見つけて、地域に合った働き方やライフスタイルを確立できるのが、地方暮らしだと思います。私は白馬へ来て幸福度は上がりました。人生も変わりました」

03
村議会選へ立候補を届け出る。一緒に選挙戦を戦ったGOATの仲間と。
04
沖縄県代表として国体に出場するも練習で靱帯を断裂。村議会への初登庁は松葉杖姿だった。

 

田中麻乃氏

白馬村村議会議員・株式会社GOAT取締役

田中 麻乃さん

沖縄県那覇市出身。大学時代はスキーにのめり込む日々を送る。製薬会社、医療法人、司法書士事務所勤務を経て社会保険労務士の資格を取得。2013年、家族とともに長野県白馬村に移住しペンションと社労士事務所を開業。2016年、白馬ギャロップ株式会社代表取締役社長に就任。2017年同社を退社し白馬村村議会議員に。同年株式会社GOAT設立。2児の母。

鳥羽山 康一郎

鳥羽山 康一郎

ライター/コピーライター/プランナー

文字を通じてのコミュニケーションを真ん中に置きながら、映像、画像などにも手を出しつつ活動。数多くのインタビューを通じ、その人の数だけの生き方に感動し感化される。自身もオフィスを持たない生き方を模索している。

このエントリーをはてなブックマークに追加
サムネイル
サムネイル
サムネイル