大好きな地元・鶴田町で自分らしく働く。ハンドメイド作家兼つるプロ代表・岡詩子氏

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大好きな地元・鶴田町で自分らしく働く。ハンドメイド作家兼つるプロ代表・岡詩子氏
2018/03/09 (金) - 07:00
工藤 健

青森県津軽地方の中心に位置する鶴田町。この町に拠点を置く岡詩子(おか・うたこ)さんは「ハンサムリネンKOMO」という自身のブランドを立ち上げ、ハンドメイドのストールなどを販売。また、「つるた街プロジェクト」という市民団体を立ちあげ、地元を活性化させるイベントなどを開催しています。一度は上京し、会社員まで経験した岡さんが、生まれ育った町で現在活動する理由を聞いてみました。

帰郷して23歳で起業

「母親の病気でした」と、地元・青森県鶴田町にUターンしたきっかけを振り返る岡さん。大学進学を機に上京して5年目。社会人として東京の不動産会社で働き、自分の時間すらもてない多忙の日が続いていた頃でした。2011年6月、23歳の岡さんは仕事を辞めて帰郷します。

母親の看病のため自宅にいる必要があり、外へ出る時間をつくることも難しかったそう。「家にいながらお金を稼ぐ必要がある」と思いついたことは、趣味の手芸で商品をつくることでした。昔からものづくりは好きで、大学時代にはスマートフォンのケースやポーチといった手縫いの雑貨をつくっていたことがあったといいます。

「やると決めたものの、売り方もホームページのつくり方もわかりません。そもそもつくったものの値段の決め方さえわからなかった。独学で本を読み漁り、当時流行っていたピーター・ドラッカーなどの経営学の本を読みました」

Uターンして2カ月後にはネット販売のサイトを立ち上げ、「ハンサムリネンKOMO」というブランド名で「縫い目の見えないオリジナル縫製のアイテム」の販売を始めました。

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「日常の質が高まる普段着」をコンセプトにブランドを立ち上げた

岡さんがつくる商品はすべてハンドメイド。リネン生地のストールやトップスなどのラインナップがあり、つくり始めると食事を忘れるほど集中するといいます。一日中家にこもって作業することもあり、「納期はもちろんありますが、自分のペースで仕事ができる。鶴田町に住む人たちがそうであるように、私自身も頑固な職人なのかもしれません」と笑顔を見せます。

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作業を始めると黙々と続けてしまうという岡さん

購入客はほとんどがネットからの注文。そのため、ブログの更新やSNSなどの発信は欠かせません。2018年1月には陸奥鶴田駅近くにあった築40年以上の賃貸物件をリノベーションし、アトリエ兼自宅としました。「なかなか片付いていませんが、人が集まるような場所にしていきたい」と話します。

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2018年1月にオープンした「KOMO utakooka」のアトリエ

起業した原動力とは?

小学校ですでに興味をもっていたのは心理学でした。「人によって異なる認識や心に関心がありました」と、高校卒業後、青森では学ぶことができない心理学を東京で学ぶことにした岡さん。「東京は目的を果たすところ。いまいるところであって、青森にはいつか帰るつもりでした」と当時の心境を語ります。

「心理学を勉強していくと、私が知りたかったこととはズレを感じるようになり、研究が必要となっていくことが多かったです。続けてもよかったかもしれませんが、大学卒業後は働くことにしました」

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ハンサムリネンKOMO店主・つるた街プロジェクト代表という2つの名刺を持つ岡詩子さん

岡さんは会社員時代をこう振り返ります。
「長い時間、同じ場所で与えられた仕事を続けることに慣れませんでした。子どもの頃からマイペースで、自分のペースを乱されるのが苦手。会社員などの一般職に向かない性分とはなんとなく感じていて、実際に現場で働いたことで、自分には合わないと実感しました」

そして、こう続けます。
「おそらく今後、誰かに雇われて仕事をすることはないと思います。精神的に限界を感じていたので。だからこそ、その気持ちが起業して自分のペースで働くという原動力になっているのかもしれません」

おもしろい町で、価値観の違う人と会いたい

自身の活動が徐々に軌道に乗り始めた2013年には、岡さんは地元の仲間と「つるた街プロジェクト(通称つるプロ)」を設立。鶴田町を楽しく発信していこうと、地域活動も平行して行うようになりました。

つるプロは、地元20〜30代の若者や主婦たちのサークルのような活動の延長で、「町のためにというより、みんなで楽しいことを続けていくという意識のほうが大きいかもしれません」と岡さんはいいます。

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つるプロのミーティングの様子

鶴田町は、夏は涼しく冬は豪雪地帯にもなる場所。すでに廃校になった小学校の出身で、「冬の下校途中にはホワイトアウトで遭難しかけたこともあったようなところ」と岡さんは笑います。近年ではスチューベン(ぶどう)の生産が盛んで、ワインづくりにも力をいれているそう。また、鶴をモチーフにしたオブジェが町内各所にあったり、薄毛を笑いに変えて世界を明るく照らすというユニークな活動を行う「ツル多はげます会」があったり。

岡さんは「おもしろい人がいて、おもしろいものがたくさんある。いろいろな人たちがそれぞれの活動にプライドを持ち職人気質。これが鶴田町の一番の魅力です」と話します。

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「ツル多はげます会」の目玉イベント・吸盤綱引き。全国的に話題となる

岡さんにはもともと自分と異なる価値観に触れることの楽しさや自分でおもしろいものを見つけるアンテナがありました。地元ではなく通学に1時間以上かかる高校を選んだ理由も「変な人がたくさんいるから」と、当時通っていた塾の先生から助言を受けたことからだったと振り返ります。

「高校時代は普通の女子高生でしたよ」と笑う岡さんですが、「今まで会ったことのない人がたくさんいて楽しかった」と話します。新しい価値観に出会うことに人一倍の喜びを見出していたそう。同級生はたった9人という小さな小学校の出身だったこともあり、その反動なのかもしれません。

自分たちのペースで、人の役に立ちたい

つるプロではまず、若者向けにフリーペーパー「TSU map(つマップ)」を発行し、イベント情報や鶴田町の店を取材しました。また、街歩きイベントを企画したり、日本一の木造三連太鼓橋で鶴田町のシンボルともいえる「鶴の舞橋」を舞台に、約1,000個のキャンドルを並べる「キャンドルナイト」を主催したりもしています。

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「星空のキャンドルナイト in 鶴田」の様子

岡さんはつるプロの代表として、活動の広報などを主に担当。実際は代表を決める会議に欠席してしまい、いなかった人が代表に選ばれたと苦笑いします。そんな活動によって講演やパネリストとして登壇する機会が増えているという岡さんですが、「街の規模が小さい分、逆に動きが目立っている部分が大きいのでは」と謙遜します。

「起業家としても紹介されることがありますが、どちらもそんなにゆるくていいの?っていう話しかできません(笑)。でも自分たちのペースを大事に、楽しく継続していくことを一番に考えていますね」

つるプロのメンバーは現在22人。女性を中心としたメンバーであるため、家庭を優先することが多いそう。出産や子育て、子どもの進学といったサイクルによって各自のリズムが異なりますが、それぞれが無理をせず、だからこそ今日の活動に結びついているといいます。

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鶴田で楽しく活動したいと語る岡さん

「今の仕事はまだ安定しないため課題は多いですが、生活に必要な収入を最低ラインとして売り上げを増やしていきたいです。『人の役に立つ=売り上げ』とも考えており、売り上げが増えることは人の役に立っている証のひとつ。そういう意味ではまだ人の役に立てていないので…」

岡さんにとって「人の役に立つ」という点は大切で、会社員時代と現在の大きな違いは、人の役に立っているかいないかが直接分かることだといいます。

2015年に地元で活動するハンドメイド作家たちを集めてクラフトイベントを行った際、イベントを機に声をかけた一人暮らしの高齢者から「久しぶりに若い人たちの声を聞いて元気が出たと感謝されたことがあり、涙が出そうになりました」と振り返ります。

「アトリエをつくったことでご近所さんとの交流もできていますし、仲良く世間話ができることも含めて、私はこの生まれ育った鶴田が好き。つながった仲間たちと一緒に楽しいことを続けていきたいですね」

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岡 詩子(おか うたこ)さん

青森県鶴田町出身。高校卒業後、上京して心理学を学ぶ。大学卒業後は東京でOLとして働くが2011年に帰郷。同年にファッションブランド「ハンサムリネンKOMO」を立ち上げる一方で、2012年には精神対話士試験に合格し(青森県では10人目)、スクールカウンセラーとしての肩書きももつ。つるた街プロジェクト代表。

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工藤 健

フリーランスのライター。東京でウェブライターを経験後、2012年に地域新聞の発行のために青森にIターンする。現在は地域の魅力発信や課題に取り組む。

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