エンターテイメントこそ、地域を元気にする切り札だ/株式会社ポニーキャニオン

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エンターテイメントこそ、地域を元気にする切り札だ/株式会社ポニーキャニオン
2018/04/06 (金) - 07:00
selfTURN ONLINE編集部

「ポニーキャニオン」といえば、レコード会社やアニメの会社といったイメージの強い会社だ。しかし、その社内に地方創生に関わる部署があることは、まだあまり知られていない。「エンターテイメントで地域を元気に」と、全国の自治体などとも協業し、数々の成果を出している。今回、それを牽引する人物・村多正俊氏にお話をうかがった。

寂しくなる商店街にショックを受ける

ポニーキャニオンで地方創生事業を手がける部署が「エリア・アライアンス部」。統べるのは村多正俊氏だ。同社入社後、地方営業、本社に異動後は洋楽宣伝等を経て音楽制作ディレクターになり、以来15年以上音楽制作畑を歩んできた。「スタジオに入って、アーティストをディレクション。ひたすらにCDをつくるってことをやってきたんです。アーティストと一緒にキャンペーンで地方へ行くことも多かったですね」

地方では、地元の商店街を歩くのが楽しみだった。東京ではお目にかかれない魚や野菜が並ぶ。書店では地元の人が書いた自費出版書も発見できる。しかし、そういった商店街にシャッターが目立ち始めてきた。2005年頃だ。
「平成の大合併で、固有の文化を守ってきた町がどんどんまとめられていったんです。加えて、郊外に大ショッピングセンターがボンボン出来て、駅前商店街からそちらへと人の流れが変わり、よく行ってた町に元気がなくなって。そんな時シャッター街で、あるアーティストのイベントをやったんです。そしたらすごく人が集まったんですよ」

その時、村多氏はエンターテイメントの力を改めて実感した。そして、自分たちが持っているノウハウが効果的であることに気付いた。地方自治体と組み、エンターテイメントで地域興しをする枠組みはこの頃できたのかもしれない。村多氏はことあるごとに会社に提案し、受け入れられる素地をつくっていった。

2015年、社長直轄のプロジェクト推進室に異動。それまで暖めていた企画を試すチャンスが来た。自治体のコンペにも参戦し、東京都港区の事業「港区文化芸術フェスティバル」を受諾する。それ以降、佐賀県のアニメ制作など初年度に10案件勝ち取ることができた。
「新たなビジネスをつくる躍動感を味わいました。何よりも僕らのノウハウが地方活性に役立つんだ!という使命感がありましたね」
そして2017年6月、自治体協業専門部署エリア・アライアンス部が発足した。

佐賀県唐津市の「唐津小唄復活劇」をサポート

東京生まれの村多氏は、ポニーキャニオン入社後に金沢営業所に配属された。その時、多角的な視点で地方を感じた。地方経済を肌で感じる機会も得た。
「地方からどうアクションを起こすか、常に頭にありました。地元TV局やFM局の若手と組んで様々な企画を仕掛けたり。当時から持っているノウハウの角度を変えると新しいものができるって感じていました。そう、弊社の現社長 吉村が常々言っていることですが(笑)」

その「90度ビジネス」の成功例が、「唐津小唄の復活劇」だ。佐賀県唐津市のNPO法人と協働した。
「この古い創作民謡は北原白秋の作詞で、昭和初期の唐津の観光ソングでした。その後唐津ではまちの旦那衆のお座敷の唄として、また盆踊りの定番だった。けれども、世が平成になり徐々に忘れ去られようとしていた。そんな希少な文化遺産をを復活させて“次世代に伝えたい”と地元の旦那衆が声をあげたプロジェクトのサポートをさせていただきました。地元の人たちがNPO法人を立ち上げ、新たな音源を制作し、それでCDを作った。彼らはそれを市内の小中学校に配って教材にしてもらうところまでこぎつけた。私はレコーディング全般のプロデュースやプロモーションを主導しました。地元テレビや新聞で採り上げられたおかげで、昭和の時代もそうであったように、盆踊りに使われて、完全に復活したんです」

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絵唐津の代表的な図柄である千鳥をモチーフにした唐津小唄のジャケット
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佐賀新聞の朝刊に掲載された、村多さんの執筆記事

空襲を受けなかった唐津は、昔からの町並みや町組織が残っている。ユネスコの無形文化遺産に登録された「唐津くんち」もある。昔の唄を復活させる土壌は整っていた。そして、エンターテイメントの力も遺憾なく発揮された。
「エンターテイメントって、敷居が低いんです。それから地元の人たちとの出逢い。異郷の僕を信用してもらったというのがたまらなく嬉しかった」

ポニーキャニオンは佐賀県において他にも県内各地を舞台にしたアニメ制作、維新150年事業の一つとして幕末佐賀の名君 鍋島閑叟をラップで表現する「The SAGA Continues…(https://youtu.be/Exn9Ypze-TY)」の制作、更にはイヴェント制作などを実施している。

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佐賀県プロデュースアニメーション第2弾。「ただいま 思い出の佐賀」(左)、「おかえり 故郷の唐津」(右)


・佐賀県プロデュースアニメーション「ただいま 思い出の佐賀」(YouTube)


・佐賀県プロデュースアニメーション「おかえり 故郷の唐津」(YouTube)

 

担当者の情熱とのコラボレーション

佐賀県に限らず、一度コラボレーションした自治体とはその後も仕事を続けることが多い。これについて村多氏は「点を線にしていく」と表現する。しかし、自治体との仕事において“点を線にしていく”過程は困難も伴う。

「首長が変わると方針が変わることがあります。平成の大合併で、合併したエリアを均等に採り上げて1つのコンテンツにまとめようとすることも多い。でも、熱い担当者がちゃんとセグメントして『今回はここ』と調整してくれたりするとわかってるなぁ、と嬉しくなりますね」
内を気にするのではなく、外の人に振り向いてもらうためのコンテンツ。ターゲットを定め、興味を喚起する内容を盛り込んでいくマーケティングの基本を担当者にしっかり理解してもらえれば、強い。

「でも、自治体や観光協会からの発信はまだまだだ、と感じる事が多いですね。SNSの運用も然り。加えてホームページも煩雑でどこに情報があるかわかりにくい。関心を惹くコンテンツをどうやってつくるかをもっと意識する必要があるなぁ、って思いますね」
SNSの運用は普段から遊びながらやるもの、と村多氏。リアルに楽しんで身に付けたセンスが公式アカウントには必要なのだ。だからこそ、ポニーキャニオンのようなエンターテイメント企業が加わることで彩りを変えることができる。

「変な表現かもしれませんが、僕らが関わると、事業がぐっとあざやかになったりする感じがある。そういう事業はKPIも上がりますね」
担当者の熱量が上げれば、業績や成果も上げられる。村多氏たちは「わかりやすくする」「敷居を低くする」ことを意識して自治体に向き合っているという。

笑いながら楽しみながら新しいものを

エンターテイメントをコンテンツの核にした場合、例えば動画やアニメを制作してYouTubeにアップ、という手順が一般的だ。そこから口コミで拡散し、注目を集めていったケースは多い。しかし村多氏は「単純に映像を撮ってYouTubeに上げただけでは絶対に振り向いてくれません」と断言する。「見る側に立って、目の前に置いてあげるくらいしないと。それが面白ければシェアしてもらい、拡がりますから」
そのためには、しっかりしたターゲティングと、それに合わせた「ギミック」を置くこと。ポニーキャニオンというショービジネスの会社であるゆえ、それは最も得意とするところだ。

村多氏は伊丹市の例を挙げる。宝塚市や神戸市などに囲まれた街だが、大阪国際空港(伊丹空港)があり、病院の数が多く、公園も整備されているといった魅力が揃う。プロモーションビデオのプレゼンで「寸劇をやった」と村多氏は笑う。
「大手広告代理店はじめ10社以上の競合プレゼンでした。絵コンテで見せても伝わりにくいからと、女性スタッフと2人でその場でお芝居をしたんです。さっき言った“敷居を下げる”ことに成功して、弊社の企画意図をうまく伝えられました」
ギミックに強い脚本家や演出家を起用して意表を突く企画を練り上げた。「コンテを見た瞬間、勝った!と思った」と振り返る。


▼伊丹市 企画提案書(絵コンテ)※一部抜粋
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・伊丹市PR動画「もしも、伊丹さんと結婚したら…」(YouTube)


 

他にも、埼玉県の農産物をラップに乗せて紹介する動画や、美しい里山風景にリリカルな楽曲を付けた千葉県市原市のプロモーション動画など、エンターテイメントというフックを持った作品が特徴的だ。

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「チームメイトには皆が楽しんでつくらないとダメだよねって、いつも言ってます。音楽ディレクターをやっていた時も、しかめ面でディレクションした曲はヒットしませんでした。みんなで笑いながら、いい雰囲気でやる。裏方もエンターテイメントを楽しんでないと、作品に出ちゃうんですよ」
その話を聞いてから動画作品を見ると、制作過程の笑い声まで聞こえてくるような気がする。

・埼玉県農産物チャンネル(YouTube)
https://www.youtube.com/channel/UCAh8PaSZbk864xkMX5Y3wEw

・「しあわせを シェアしよう 市原市」(YouTube)

 

事業領域をクロスしてチームを結成

ポニーキャニオンでは「自治体プロモーション研究会」という、自治体同士で横のつながりを築くためのミーティングも開いている。各自治体の担当者が一堂に会して、情報交換をしたり講演を聞いたりワークショップを行ったりと、情報やノウハウを共有するための試みだ。最新の成功事例を聞くこともでき、自治体間の連携も生まれる。

「僕らがプラットフォームというかハブみたいになって、同業他社の皆さんともつながりたいんです。日本を元気にするためには、みんなで手を組んで同じ案件に当たっていったらいいと思います。映画やアニメの制作委員会のように、等分のシェアが受けられればと」
業界を横断するプロジェクトチームが結成できれば、日本のソフトパワーは何倍にも増幅するだろう。各社が持っている強力なコンテンツやノウハウが、共有の武器となるのだから。

ここで社内に目を向け、どのようなチーム編成なのかを訊いてみた。
「地域共業ワーキングチームは、スペシャリストの集まりです。アニメ、映像、宣伝のプロが案件に応じて召集される感じです。管理セクションや営業畑の人間も加わりますね」
メンバー構成は3人が基本。自治体との窓口を村多氏はじめとするエリア・アライアンス部が担当し、スペシャリストたちが専門的なコンテンツを制作する。事業領域が広いので、エンターテイメントに関してはほぼ網羅できる強みを持つ。社内でワンストップ体制が組めるところが、村多氏たちのアドバンテージだ。

更なるエリアへの特化

「エリア・アライアンス部」──エンターテイメント企業内での地方創生プロジェクトという、他に類を見ない部署が次に目指すのはどこなのだろう。
村多氏は「DMOへの参画」と言う。DMOとは「Destination Management Organization」の頭文字で、地域の観光資源に精通し、協働して観光地域作りを行う法人のこと。観光庁では日本版DMOの登録を進めており、安定的に収益を上げられるような法人運営を目指していく。
「DMOに参画することは、その地場に住み、事業を推進しなければならない。自治体の人たちとも人事交流もできますし、僕らの方(東京)に来てもらって広報ノウハウを共有できればいいなぁ、と思っています」

そして同時に、「ブランディング」も視野に入れている。
「社内にはクリエイティブな人材がたくさんいます。彼らを核としたコンテンツ・イベントをやったり発信したりすれば、ブランディングを形づくっていくことができるのでは」

さらに、大切なのは「外目線」とも言う。今まで地元の人々が気付いていなかった観光資産を、外からの目線で磨き上げる。地域資源だったりカルチャーだったり、どうしてあんなところに外国人が行くのか?という理由に気付くのは、外目線の持ち主だから。それらを見つけ出し拡散することで、エリアのブランドは形成されていく。

「エンターテイメントだから、ユーモアは必須。でも、ずっとそればかりではなく真面目に丁寧に。それらのちょうどいいバランスが大切です」
理論を援用したり、統計をもとに仮説を導き出したりする地方創生プランもあるだろう。しかし、エンターテイメントを主軸に据えているケースは稀だ。思ってもいなかった角度から切り込む手法で、これからの地方をもっと面白いものに変えていくに違いない。その成果に、きっと全国からアンコールの声が起き続けるだろう。

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(株)ポニーキャニオン 経営戦略Div. エリア・アライアンス部 部長

村多 正俊

地方営業・宣伝を経て音楽制作ディレクターに。以降、プロデューサー、ディレクターとして原盤制作、レーベル運営、PR、イベント制作、更には映像制作等を長きにわたり携わる。手がけたパッケージは300タイトルを超える。近年はデジタルに特化したコンテンツ制作、プロモーション、更にはVR事業等を手がけ、それらの経験値をもとに地域、自治体協業をローンチ、現在に至る。

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