ゲームを軸に自己実現の場をつくること

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ゲームを軸に自己実現の場をつくること
2018/07/18 (水) - 07:00
島田 浩美

東京・秋葉原に本社を置くスマートフォン向けゲームの企画・開発・運営を行う株式会社アソビズム。代表作の「城とドラゴン」や「ドラゴンポーカー」「トロッコウォーズ」は登録ユーザー数が合計約1200万人を突破し、一部タイトルは海外でも展開をしています。代表取締役の大手智之さんは、子育てや今後の人生を考えたとき、「子どもを大自然の中で育てたい」「家族との時間を大切にしたい」と思い、軌道にのっていた東京本社の事業はそのままに、長野県に支社を立ち上げました。そんな大手さんにとっての仕事のあり方、暮らし方、そしてこれからのめざす姿について伺いました。

ないなら作る!きっかけは父が買ってきたパソコン

群馬県安中市で育ち、ゲームが好きだったものの、当時流行していたテレビゲーム・ファミコンは買ってもらえなかったという大手さん。小学校3年生を過ぎたある日、父がなぜかファミコンよりも高額のパソコンを購入してきたことから、大手さんのゲームクリエイターとしての人生はスタートしました。
当時、パソコンでゲームができることがわかっても、パソコンゲームは子どもには手が出ないほど高価。そこで、ゲームのプログラミングの本を書店で見つけ、自分でプログラムを打ち込んでゲームを作れば好きなだけ遊べると考えたのです。

最初は1本のプログラムを打ち込むのに何日も時間がかかりましたが、次第に打ち込むスピードも早くなり、夢中で取り組むうちにオリジナルゲームが制作できるまでになりました。そのゲームを楽しむ友人や兄の姿を見るのがうれしく、小学校の卒業文集には、将来の夢に「ゲームクリエイター」と書くほどゲーム制作に熱中しました。

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しかし、中学に入学すると、部活動や友人との遊びが忙しくなり、徐々にプログラムをする時間が減っていきます。当時はまだまだ「プログラミングはマニアックなオタクの遊び」という印象が強かったこともあり、周りの目を気にする年頃だった大手さんは、大好きなプログラミングを封印。その後、10年近くゲーム制作から離れて過ごしました。

そんな大手さんが再びゲーム制作と向き合うようになったのは、めざしていた美術大学の進学を諦めた20代前半。三浪し、これから先、何をやればいいのかわからなくなっていたところ、当時お付き合いをしていた今の妻から「そういう時にはとりあえず自動車教習所にでも通って、何か目的をもって毎日を過ごすといいよ」とアドバイスされたのです。
そこで、免許をもっていなかった大手さんは毎日教習所に通学。結果的にそれが功を奏すことになりました。

「晴れて免許が取れた時に彼女から何がやりたいのか聞かれ、初めて小学生時代にゲームを作っていた話をしたら、すごく驚いて喜んでくれて『それを仕事にすればいいじゃない』と言われたんです。僕にとって、ゲームを作ることは楽しすぎるから仕事にならないと思っていました。でも、彼女の言葉で、本当に自分が好きなことを仕事にしなければずっと自分に嘘をつき続けることになると気付きました」

経験を生かしたゲームが大ヒット

こうして、都内のゲーム専門学校に進学し、その後、ゲームの制作会社に就職。そして、入社1カ月でプレイステーション用のゲームを企画提案しました。それが、教習所に通っていた経験を生かした「免許をとろう!」というゲームでした。
「今思えば、本当に生意気な新人だったと思います(笑)」
こう当時を振り返る大手さんですが、社長から「自分でチームを集めてやってみて」と企画の承諾を得ることもでき、専門学校時代の仲間に声をかけ、約半年かけて開発。相当な苦労はあったものの、発売すると30万本を超える大ヒットを記録しました。

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「それまで会社で参入したこともない家庭用ゲームの開発で、入社間もない新人に企画も開発も任せるということは、通常ありえない話です。社長のいい意味での大胆さと寛容さがあったからこそ、チャンスをいただけました。今でも感謝しています」

その後も、大手さんはプレイステーション用のゲームタイトルを何本か手がけ、会社も順調に業績を伸ばしていきました。
そして入社から5年が経ち、27歳になった時に大きな決断をします。会社を退職し、2002年、結婚と同時に「アソビズム」を設立するのです。

「自営業を営んでいた父の影響もあり、若い頃から30歳までに独立して自分の会社を設立したいと漠然と描いていた夢がありました。それを実現するなら今しかないと思えたのです」

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仕事を遊びのように楽しみ、遊びを仕事のように真剣に取り組むという思いを込め、「遊び」に主義という意味合いの「イズム」を付けた造語「アソビズム」

仕事に全力で取り組み、面白いゲームを作ることが営業に

独立後、しばらくは事業が軌道に乗らず悩みましたが、ある時、有名なゲームメーカーから「ゲームを作ってほしい」と依頼が舞い込みました。喜んで企画やサンプルを提案し、リリースしたゲームはユーザーからも大好評。続くゲーム制作の依頼も寄せられ、期待に応えるために大手さんは採算度外視で全力で仕事に取り組むと、会社の業績は頼まずとも右肩上がりに伸びていきました。

「この時、目の前にある仕事に全力で取り組み、よい商品を作ることが一番の営業なんだと実感しました」

こうして他社からも次々と制作を依頼され、従業員も急増。創業時から目標としていた「100%オリジナルゲームで勝負するゲームメーカーになる」という夢も実現し、現在は社員規模が90名ほどの会社になりました。

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「僕らは、今のゲーム業界の中ではかなり特異な会社だと思っています。売り上げ目標を達成するよりも、クリエイター自身が本当にやりたいことを妥協することなく最後までやりきることを重視しているので、時には完成が予定より大幅に遅れることもありますが、その分、オリジナリティーが高く、ほかでは体験できないゲームが生み出せていると自負しています」

大手さんはクリエイター一人ひとりが持ち味を生かし、自分が一番やりたいことに挑戦できる雰囲気や環境こそが大切だと言います。それは「得意を活かす」というアソビズムの経営理念にも表れているのです。

新しい働き方を求め、自然溢れる長野へ

仕事に情熱を傾けながら、2児の父になった大手さん。少しずつ子育てや今後の人生を考えるようになり、子どもたちにとっては自然の中での遊びが重要だと感じるようになりました。

そんななか、知人から里山教育を行う長野県の幼児教室を紹介され、2011年夏、家族で幼児教室が主催するキャンプに参加。これにより、自然の中でありのままを楽しむ暮らしの自由さを実感し、さらに幼児には大変な登山でも言葉巧みに登らせる園長先生を見て、子どもに制限をかけているのは大人の価値観だと気付かされたといいます。

そして2カ月後に長野県に移住。翌年、東京本社はそのままに、長野市善光寺近くの老舗旅館だった建物をリノベーションし、2013年、38歳で長野支社(長野ブランチ)を立ち上げました。

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築約100年の旅館をリノベーションした長野ブランチ

「21世紀はあらゆることが多様化していく時代です。住む場所や働き方もそのひとつ。長野などの地方で働くことも選択肢のひとつだと思っています。東京には能力の高い人が集まったり、必要な環境や部材が揃いやすかったり、刺激が多いという働きやすさがあります。一方、長野には自然が近かったり、満員電車などのストレスがなかったり、家族との時間をとりやすいという働きやすさがあります。どちらが正解とかではなく、何を求めているか。今の僕は後者を求める場所と働き方を選びました」

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長野ブランチにはキッチン&バーカウンターを設置

大切なのは一人ひとりに自己実現の場を生み出すこと

長野ブランチ設立の目的はゲーム制作ではありませんでした。大手さんはゲーム業界に入って間もない頃から、ゲーム作りのノウハウはきっと教育にも生かせるはずだという考えがありました。そして、自然が豊かな長野に移住したことをきっかけに、アソビズムの得意を生かして何か社会に貢献したいという思いから、ICT共育事業「未来工作ゼミ」を立ち上げることとなります。

活動の軸としては、“プログラミングで学ぶ”「未来道場」、“つくるコトで学 ぶ”「PLAY&CRAFT(プレイ・アンド・クラフト)」、“自然の中で学ぶ”「サマーアドベンチャーキャンプ」などがあります。こうした活動を通して、子どもたちの創造的思考や論理的思考を育む手助けができれば、というのが大手さんの思いです。

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大手さんが自分の子どもたちとやりたいことを中心に企画し、2014年から毎夏開催している「サマーアドベンチャーキャンプ」
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2017年の「サマーアドベンチャーキャンプ」のテーマは「リアルロールプレイングキャンプ」。子どもたちが冒険者となって森を探索したり、旅の装備や食事を自分たちで作りました

一方、経営者としては、会社が利益を出すことで持続可能な状態を保ちつつ、社員全員が仕事に限らず目標をもって自己実現できる場所をつくっていくことをゴールに定めています。そうした取り組みのひとつとして、本社のスタッフを対象に、年数回のペースで登山や山菜採り、キャンプやスキー、温泉などを楽しむ長野ツアーを開催。その交流の中から「長野で働きたい」と思うスタッフが出てきたら、ゆくゆくは長野でゲーム制作をする部署をつくってもよいと考えているそうです。

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そうした思いも踏まえ、2018年4月に長野ブランチの近くの元家具屋の倉庫を改修し、オープンしたのが「アソビズム横町LABO」です。1階は多目的スペースのほかに、ボードゲームなどのアナログゲームが楽しめるカフェを併設。年齢を問わず楽しめるボードゲームは、今後の日本の少子高齢化社会の中でのコミュニケーションツールとしての可能性があり、子どもの創造性にも一役買うと大手さんは考えています。

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倉庫を改修した大きな建物。手前が多目的スペースで左側の箱状の空間が従業員スペース、その奥がカフェ
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カフェにはカウンターとテーブル席を設置
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ひと通りのボードゲームが揃っており、カフェで楽しむこともできる。今後はデジタルゲームで培ったノウハウを生かし、教育的エッセンスも取り入れたオリジナルボードゲームの制作も考えているそう。

そして、2階は地域の小・中学生が学校帰りに立ち寄り、気軽にモノづくりに親しめる場所「PLAY&CRAFT」として利用できるようにしていく予定です。

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2階の一角に設けられたモノづくりのためのスペース

「あらゆることが予測できない未来の社会では、これまで通りの『指示されたことをそつなくこなす能力』よりも『失敗を繰り返しながらも工夫して挑戦していく能力』のほうが大切だと考えられています。ダンボール工作にしろ、電子工作やゲームプログラミングにしろ、子どもたちはモノを作ることで、学校の授業や本を読むだけでは得られない多くのことを学んでいくのです」

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「PLAY&CRAFT」では電子工作や手芸、木工工作などいろいろなモノづくりが楽しめる。2018年6月にオープン

「そのため、『PLAY&CRAFT』では、あえてカリキュラムを用意していません。子どもたちには、自らやってみたいと思うことをプロジェクトにしてもらい、大人はそれを実現するための環境づくりに力を入れています。低学年の子どもの場合、やってみたいことが、時には難しいということもあるかもしれません。そんな時でも、子どもたちの作業を代行するようなことはせず、できるだけ手順を説明して本人に挑戦してもらうようにしています。また、子どもの作った作品に関しても、出来栄えはあまり重要視していません。もちろん、完成度を高めることも大切ですが、あまり周りの目を気にすることなく、純粋にモノづくりを楽しんでもらえるように心がけています。そのほうが自由にのびのびとモノづくりを楽しめ、失敗を恐れず、新しいことにチャレンジする精神が育まれていくと考えているからです」

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大手さんを囲む長野ブランチの池田俊昭さん(右)と阿部あさひさん(左)。長野ブランチで働くスタッフのほとんどは長野出身者だそう

地方には楽しみながら働くチャンスが溢れている

最後に、大手さんに地方での起業のアドバイスを聞きました。すると「地方に移住するなら、ライフスタイルとして田舎暮らしを150%くらい肯定できないと難しいと思います」との答えが返ってきました。

「都会暮らしに疲れたというネガティブな理由なら、移住しないほうがいいです。『この場所ではないと夢が実現できない』くらいの思いがあったほうが絶対に幸せになれます。そのうえで、地方らしい仕事の起業には可能性があると思っています」

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たとえば、今後合法になる民泊の新サービス構築など、地方独自のビジネスにいままで自分が携わってきた得意分野をプラスアルファの武器にしたら、新しい仕事が生み出せるのではないかと大手さんはいいます。

「そういう観点ではライバルが多い都会に比べ、田舎のほうが楽しみながら働けるビジネスチャンスがあると感じています」

大手さん自身、移住してきたことで東京では出会えなかったようなタイプの人と出会え、登山やサイクリングなどアウトドアの趣味も増えたことで、仕事や遊び方の幅に広がりが生まれているのだそう。

「新たな気付きやチャレンジが自分のさらなる財産になり、新しい扉が開いていると感じます」

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表裏一体のように思える「自然活動」と「テクノロジー」の融合を通し、さらに独創性を高めているアソビズム。大手さんの生き方、働き方からは、信念と情熱をもって目の前の仕事に真摯に取り組むこと、仕事も遊びも全力で楽しむことが、自分の明るい未来の開拓につながるのだと伝わってきます。

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大手 智之(おおて ともひさ)さん

1974年生まれ、群馬県高崎市出身・安中市育ち。2002年、「米国法人アソビズム」として起業。日本支社として「株式会社アソビズム」を立ち上げ、2005年、日本法人化し、東京に「株式会社アソビズム」設立。2012年、子どもの幼児教室入園のために長野県に移住。翌年「長野ブランチ」設立。2018年「アソビズム横町LABO」設立。2児の父。

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島田 浩美

編集者/ライター/書店員

長野県出身・在住。大学時代に読んだ沢木耕太郎著『深夜特急』にわかりやすく影響を受け、卒業後2年間の海外放浪生活を送る。帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に編集兼デザイン事務所「合同会社ch.(チャンネル)」を設立し、「旅とアート」がテーマの書店「ch.books」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。

編集/株式会社くらしさ

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