複業を通じた新しい未来を創造する
一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家 石川 貴志氏
加藤 晶子
2017/11/02 (木) - 08:00

ソフトバンクやDeNAといった大手企業も複業解禁し始める中、複業への関心はますます高まっています。今回は、大手企業の会社員であり、社団法人の代表理事、地方創生の推進リーダー、3児の父と一人何役もこなす石川貴志氏。自ら複業家を名乗り、複業を通じてイキイキした社会を作りたいと語る石川氏ですが、以前は複業や地域貢献などには興味を持っていなかったそうです。そんな石川氏が、どのように今のライフスタイルを確立してきたのかに迫ります。

複業はやりたいことを実現するための手段

「やりたいことを始めた結果が複業だったんです。」という石川氏。
最初は、「イキイキ働いている大人を増やしたい。」というシンプルな思いから活動が始まりました。自身は仕事にやりがいを感じていることが多かったものの、ふと周りを見渡すと、イキイキ働いている大人が少ないことに気づいたということです。

「会社から怒られようが、この人イキイキしているな、という人いますよね?こういう大人になれるプロセスが分かれば、なれる人が増える。そこを抽出して伝えられたら、というのが始まり。最近、周りで、やりたいことが分からない、という話をよく聞きます。自分のことは自分では良く分からない。でも、複業として試すことができたら、もっと多くの人がやりたいことを見つけてイキイキできるのではないかと考えています。だから、複業は手段だと思っているんです。」

石川氏は、個人が今後イキイキ働くために必要なことは、「能力開発」と「興味開発」だと言います。
「能力開発はMBAのような、仕事上で生きるスキルや知識を身につけるもの。興味開発は、自分の興味や関心を見つけていくプロセスのことです。大人が興味開発を体系的に学べる場所ってないと思うんです。だからこそ、アクションを起こさないと分からないので、試してみることが大切だと思います。例えば、興味のあることが10個あったら、まずは全部やってみる。そして、徐々に本当に自分がやりたいことが絞られてくると思うんですよね。
2つか3つに絞られたら、そこから深く掘り下げていくと、興味開発の段階が進んでいきます。興味開発のプロセスは、自分のあるべき姿を見つけるプロセスです。幸せというのはそのプロセスにこそあるんだと思います。」

多くの人が、自分のやりたいことが分からずに、なんとなく仕事をしてしまっている中、複業という手段で、自分の興味を開発し、イキイキと働く大人が増えることが、ひいては社会全体の活性化にもつながるのだということを石川氏は熱く語ってくれました。

活動開始~社団法人設立まで

今では複数の役割を並行してこなしている石川氏ですが、20代の頃は、1社で働き、その仕事中心の生活を送っていたとうことです。そんな彼を変えたのが、東日本大震災でした。

まず、震災を機に、社会に何か貢献したいという気持ちが湧き、偶然出会ったSVP Tokyo(ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京)という社会的事業への投資と協働を行う団体に参加します。2年間の活動の中で、様々な団体の活動に触れ、自分のやりたいことも明確になっていったそうです。

そして、2013年8月に自身主催の第1回イベントを開催します。
「最初は個人的な活動から始まりました。イキイキとした大人を増やしたいと思っていたので、まずは、自分が素敵だと思う方をゲストにお呼びしたのですが、経営者の立場の方と、従業員の立場の方両方に来ていただくことを最初から決めていました。参加者の方も経営者や会社員が混じり、場の活性化につながりましたね。これが、今でも続いている、働き方と組織の未来を考えるダイアローグセッションです。」

初回から60名を超える方に集まっていただき、盛況のうちに終えたセッションだったそうですが、その後も、参加者の方の声を拾いながら、求められているものと自分のやりたいことをかけ合わせた様々なイベントを立ち上げていったそうです。

石川氏の活動は、広がりを見せ、現在では「働き方と組織の未来を考えるダイアローグセッション」「地方と都市を繋ぐプロジェクト(ローカル&グローバル)」「サラリーマン・イノベーターネットワーク」と大きな3つの柱となっています。それぞれに関心のある方々が集まり、毎回数十名~100名規模の一大イベントとなっています。

そして、最初のイベントから1年半後の2015年2月に、社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)を設立することになります。活動が広がってきたことで、組織的に動く必要性があったことと、法人との連携が始まったことがきっかけだったと石川氏はいいます。

複業が創る地域の未来

「地域に視点が向くようになったのは、子どもが生まれてからです。子どもたちの世代に残すものがある、自分が死んでも地域は残る。そのように考えたことがきっかけで、地元に何か貢献できることはないかと、興味を持ち始めたのです。」

何か自分が貢献できる地域の活動はないかと調べているうちに見つけたのが、地元福山市で行われる予定の「地域の未来を考えるフューチャーセンターのワークショップ」だった。発起人の方が福山市出身で川崎市在住だったこともあり、石川氏は、その方とも親交を深め、積極的に活動に参加するようになったそうです。年に数回の福山市への訪問を継続し、3,4年、その間、市民活動だったものが、産学官を巻き込んだムーブメントになってきているとのこと。
「今年の3月に福山駅前再生協議会の委員になったことをきっかけに、地域で人材リソースをシェアリングする「複業モデル地区」構想について、協議会で提案させていただきました。新しいワークスタイルやライフスタイルを実現できる環境を産官学連携で整えれば、地元にも人が戻ってきやすくなるのではないかと感じています。」

これから複業を目指す人たちへ

複業をするうえで欠かせないのは「時間管理」と石川氏は言います。
「まず、自分の生活の中に余白(余裕)を作ること。仕事が忙しすぎて、平日はほとんど仕事で休日は休息にあてているような方もいらっしゃいますが、それだと難しいと思います。」また、独身者は、会社以外の時間もたくさんあるので、できる方も多いと思いますが、石川氏が今チャレンジ中なのが、子育てしながらの時間確保だそうです。

子育てと仕事と社団法人の活動、それらの重なる部分をどうやって作っていくかがカギだと石川氏は言います。最近、試みたこととしては、群馬県水上市にある「テレワークセンターMINAKAMI(みなかみ)」という、幼稚園を改修したサテライトオフィスを活用し、家族旅行と仕事を重ねたことだそうです。

「幼稚園を改修しているので、子どもたちを園庭で遊ばせつつ、仕事もできる環境が整っている、という最高な場所。都心からも近いですし、気軽に来られることも魅力。実は、水上の方たちとも仲良くなり、ここでも地域活性につながる新しいプロジェクトが始まるかもしれません。」とイキイキと語る石川氏。こういう情報をキャッチする視野の広さも、複業家ならではなのだと感じました。

一方で、現在の仕事で100%以上の成果を出すことも必須と言い切る石川氏。「今の仕事で100%以上の成果を上げられなければ、当然、周囲の視線が厳しくなります。複業を始めても、パフォーマンスを落とさないことは必須条件です。」

関わっているプロジェクトが増えても、それぞれにかけるパワーを分散するということではなく、あくまでパラレルにすべてに全力投球するためには、どう自分の時間を再配分し、重なりを作るか、という姿勢には、複業家としてのチャレンジ精神をひしひしと感じました。これからの石川氏の活動からも目が離せません。

 

【参考】テレワークセンターMINAKAMI(みなかみ)
https://tw-g.org/minakami/

【参考】合わせて読みたい。石川氏の寄稿記事はこちらです。
姉妹サイト「GLOCAL MISSION Times」寄稿記事
<第1回>「複業モデル地域」構想のきっかけ
https://www.glocaltimes.jp/column/1106
<第2回>「産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル」
https://www.glocaltimes.jp/column/1111
<第3回>「リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント」
https://www.glocaltimes.jp/column/1401

石川 貴志(いしかわ たかし)さん

一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家 1978年生まれ、三児の父。リクルートエージェント(現リクルートキャリア)の事業開発部門のマネージャーを経て現在、出版流通企業にて勤務。2012年より本業外の活動としてNPO・社会起業家に対して投資協働を行うソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京のパートナーとしても活動。2013年にWork Design Labを設立し「働き方をリデザインする」をテーマにした対話の場づくりや、イントレプレナーコミュニティの運営、また企業や行政等と連携したプロジェクトを推進する。現在は、(公財)ひろしま産業振興機構の創業サポーターや、(独)中小機構が運営するTIP*S アンバサダーも務める。

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