ビジネスに活かすメンタルコーチング。部下の能力を引き出す方法

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ビジネスに活かすメンタルコーチング。部下の能力を引き出す方法
2017/10/27 (金) - 08:00
寺本 亜紀
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2018年2月に平昌五輪が開幕しますが、一流選手に欠かせないのがメンタルコーチングです。ラグビー・ワールドカップでもメンタルコーチの存在が注目されました。ビジネスの場ではどのように活かせるのか。そこで今回は、冬季五輪に3度メンタルコーチとして参加された松下信武さんに部下の能力を伸ばす方法などを伺います。

プロフィール画像

ゾム 代表

松下 信武(まつした のぶたけ)さん

1944年大阪生まれ。1970年京都大学経済学部卒業。 三洋化成工業入社、学習塾経営、ベルシステム24執行役員・総合研究所長を経て、現在ゾム 代表。 2016年まで約14年間、日本電産サンキョー スケート部のメンタルコーチを担当し、冬季五輪に3回参加。2010年バンクーバー五輪での長島圭一郎選手銀メダル、加藤条治選手銅メダル獲得に貢献する。 女子プロゴルファー、カヌー選手、高校球児などさまざまなスポーツのメンタルコーチを務める。 『エグゼクティブ・コーチング』『EQコーチングのスキル』『すごい上司 なぜ人は言われたこともできないのか 部下が自ら動き出す心理学』など著書・監修多数。

最高の結果を出すために。心の状態を作り出すメンタルコーチング

第3回-1
現在もメンタルコーチとして活躍される松下信武さん

―スポーツのメンタルコーチングについて教えてください

スポーツにおけるメンタルコーチングとは、「選手が最高のパフォーマンス、最高の結果が出せるような精神状態、心の状態を作り出すこと」です。
ラグビー・ワールドカップ(W杯)イングランド大会で、日本代表は強豪南アフリカに勝利しましたが、そのときにメンタルコーチである荒木香織さんが彼らをサポートしたことで注目されました。あれこそがメンタルコーチングです。
メンタルコーチングでは本人から話を聞くだけでは不十分なので、普段の練習をしっかり見て、その選手の精神状態を推測できるようにします。
特に大事なのは非常に重要な試合のとき。選手の行動を観察して、心の状態を把握することが大切になります。

―体の動きにも変化が現れるのでしょうか?

体には精神状態が現れます。例えば野球の場合。ピッチャーが力んでいると、投げるときに、腕にグッと力を入れて、一瞬止まる感じがするんです。そうすると球の伸びが悪くなるのでたいがい打たれます。
それから体幹の動きにも現れます。
打者は打ちにいこうとすると体幹がぶれます。「打とう」という気持ちだけ先走って前に体重が傾くからです。そういうときは、メンタル面で自信がなかったり追い込まれたりしています。

本番で力を発揮するためには、自己効力感を高めることが大切

―力を発揮するために必要な要素とは?

2016年まで約14年間、日本電産サンキョー株式会社のスケート部のメンタルコーチを担当し、冬季五輪に3度参加しました。
2006年の冬季五輪トリノ大会では、世界記録保持者だった加藤条治選手を始め、長島圭一郎選手など日本のスピードスケート短距離界のトップが揃っていた強いチームだったのに惨敗したんです。次の五輪でどうしたら勝てるのか悩み抜いてたどりついたのが「自己効力感(セルフエフィカシー)」を高めることでした。
自己効力感とは、「目標を達成できる、勝つための能力があるという意識を持つこと」。五輪のような重圧がかかる状況で力を発揮するためには、自己効力感を高めることが重要なんです。

―自己効力感を高める方法とは?

「努力をする→成果があがる→成長を実感する→自己効力感が高まる→ますます努力をする」と良い循環を作ることです。
楽をしていると、それに体が慣れてしまうからか、ホメオスタシス(生体恒常性)により現状維持か下がるかしかありません。
トレーニングをすると体が変わり、脳も変わってくる。そのように新たな能力を創り出していくわけです。
メダルを争う選手はギリギリのところで戦っています。いつも苦しい練習をしなければならない。それが10年くらい続くので、それに耐えられるメンタリティーを作り上げる必要もあるのです。

モチベーションを保つために意識すべき2つの方向性

―五輪は4年に1度ですが、どのようにモチベーションを保つのでしょうか。

心理学の話でいうと、人間のモチベーションに関して、心理学ではアチーブメントゴールセオリーというのがあり、「エゴオリエンテーション」と「タスクオリエンテーション」という2つの方向性があります。エゴオリエンテーションとは、「何としてでも試合に勝とうと意欲をかき立てたり、社会的な優劣や上下関係の比較において、より高い社会的地位に昇進しようする行動に意欲の焦点を合わせること」、タスクオリエンテーションとは、「ある課題を克服する方向に意欲を集中させること」です。

―2つの方向性の違いを具体的に教えていただけますか?

何年か先のことを考えるときには、エゴオリエンテーションが役立ちます。わかりやすく説明すると、東京五輪の出場をめざして3年後まで苦しい練習をしなければならない、でも日々の練習はつらい。だから、今、苦しい思いをしているのは、「東京五輪で金メダルを獲るため」だと考えるんです。そうすると今、頑張れる。そうでなければやっていられません。

ところが試合が段々近づいてきますよね。ましてや試合当日となったとします。例えば、東京五輪の当日、そこで「金メダルを獲ってやろう」と考えるとダメになってしまいます。ゴールにたどりつくまでのタスクを忘れてしまうからです。
基本的には、試合のときにはタスクにフォーカスしなさいと言います。試合というのはタスクの連続なんです。それをきちんと仕上げてゴールにたどりつく。
100メートル走であれば、スタートのポジション、加速のタイミングなどはすべてタスクです。それらを一つずつきちんと習得し実行することで結果につながる。これはビジネスでも同じです。

上司がそれぞれの部下にあった「成功パッケージ」を用意する

01

―部下の自己効力感を高めるにはどうすればいいのでしょうか?

例えば、運動神経がいい子は何をやらせてもうまいじゃないですか。ちょっとやったら成果がでるわけです。子どものときから「努力→成果→成長→自己効力感」の循環がうまくできている。
でも、不器用な子は頑張ってもうまくいかない。だから成長感がないし、楽しくもない。僕はものすごく不器用だったので、スポーツに関しては自己効力感が全然なく、スポーツが嫌いでした。自己効力感が低い人は努力しても無駄だと思っているので、グルグル変な循環が始まるわけです。

悪い循環に陥っている部下には、努力したら成果があがるという仕組み、つまり「成功パッケージ」を作って、歯車をまわすようにしてあげることです。努力の仕方を教えてあげなければならない。
声掛けや、正しいアドバイスで自己効力感を高めることができます。それがコーチであり上司の腕なんです。

―具体的にどのようにすればいいのでしょうか?

ある企業の営業部長のコーチングの例ですが、営業部長は「とにかく回れ。100社回れ」と全員同じようなやり方をさせていました。でもAくんは成績がまったく上がらない。それで、やり方を変えたんです。Aくんの性格を見て、お得意さんと良好な関係を作るほうが向いていると考え、じっくりお付き合いをさせるようにしたところ、Aくんの売上があがっていきました。
上司たるものは、その部下にあったやり方を与えなければいけません。そうすることで上手く循環していきます。

日々の仕事の積み重ねで大きなチャンスがやってくる

第3回-2

―「成功パッケージ」のために必要なこととは?

まず本人が気づくこと、成長したいと思うことです。
僕がスポーツから一番学んだのは日々の練習をきちんと行うことです。仕事では、ルーティンワークを丁寧にすること。日々の仕事を積み重ねることで、難しい仕事ができるようになります。いきなり複雑な仕事はできません。日々の仕事を馬鹿にしてはいけない。

上司は、仕事の目的を教えて本人に正しいやり方をみつけさせることが大切です。日々の積み重ねで、そのやり方はいいのか悪いのか、本人がわかってきます。一流選手は練習目的と正しいやり方をみつけています。
積み重ねることで大きなチャンスを得られるようになる。諦めないことを教えるんです。

甲子園でエラーする子は、必ず練習でもミスをしている。不器用な子でも、正しい練習目的を意識し、効果的な練習を積み重ねたら、エラーは確実に減っていきます。練習には、選手のスポーツに対する姿勢が出るんです。本人がミスに気づかなければ繰り返し、どうしてミスをするのかを考えさせます。自分でミスをみつけて修正することが大事です。
ただ、ミスをしたときに自分を責めてしまう人がいますが、それは一番やってはいけない。謝っても自分を責めても意味がないんです。修正すればいい。
上司は、どうすればミスが減るのかを考える習慣をつけさせるといいですね。

―スポーツも仕事も日々の取り組みが大切なんですね

そうです。以前、AKB48の総合プロデューサーである秋元康さんの部下のコーチングをしたのですが、秋元康さんにいつもこう言われているそうです。「1万円の仕事も100万円の仕事も同じようにやらなければならない。お金をいただいているのだからちゃんと仕事をしなさい。仕事は断ったら二度とはこない。」
それを聞いて、秋元さんはすごい人だと思いましたね。
本当にそのとおりで、小さな仕事を積み重ねて丁寧にやっていく。それが正しい姿です。目標をきちんと見据えて、そのために何をすればいいのかを自分で考えるということです。

弱みにも使い道がある。弱みを利用する方法を考える

―なかなか成果がでない部下に対しては?

人間は弱みを持ってはいけないと思っているんですよ。でも弱みにも使い道があるので、弱みを利用すればいいんです。
産業廃棄物の業者がこう話していました。「一緒に捨てるからゴミになるけれど、分別したら資源になる」と。
弱みをゴミだと思わないことです。「繊細さ」を「洞察力がある」と考えると弱みだと思っていたことが強みになります。弱みをうまく使えば資源になるんです。
上司は、本人に弱みの使い道を考えさせるようにします。

―どうすれば弱みを活かせるようになりますか?

02

レギュラー選手になれなくても、「それを弱みと思ってはいけない。使い道はたくさんある」と伝えます。それをみつけるのもメンタルコーチの仕事です。
例えば高校野球。
肩が弱いキャッチャーは、自分の弱点を知っているので、早めにランナーの動きを察知するようになります。
レギュラーではないけれど3塁コーチに向いているという選手もいます。チームとしては3塁コーチには判断力のある人材が欲しい。3塁コーチの判断によって得点につながるかどうか決まりますから。野球はレギュラーだけでやるスポーツではありません。3塁コーチにやりがいを感じるようにしてあげればいいんです。

先日、強豪校の野球部で、誰もやりたがらない雑用を率先してやる選手がいたので、「君、会社にはいったら出世するで」と言ったんです。
企業でもそういう仕事があるじゃないですか。目立たないけれど大事な仕事が。
本人がその仕事にやりがいを感じられるように上司がモチベーションをあげてあげることが大事なんです。

タスクを明確にして、上司が部下の成長をサポート

第3回-3

―上司はどのように部下のモチベーションをあげればいいのでしょうか?

エゴオリエンテーションとタスクオリエンテーションを意識して、仕事を与えることです。
上司が部下を一人前のビジネスパーソンにしたいと心から思って、その社員なら絶対にできると期待感を持って、小さな積み重ねをさせていく。目的を達成するために今、何をしなければならないのか、タスクを明確にすることです。
それで半分くらいの人は変わると思います。
自分で考えるクセを作らせることです。本人にいかに考えさせるか。どう仕向けていくか。それが大事です。
ただ、それには上司と部下の信頼関係が結ばれていなければならない。
社員自身が成長の必要性を感じて、そのための努力を続けられるように上司がサポートすることで組織の力もあがっていくはずです。

 

【 過去2回の連載記事はこちら 】

<第1回>50歳を過ぎて迎えた人生の転機。コーチング創成期から活躍する松下信武さんの生き方

<第2回>エグゼクティブ・コーチング。リーダーが変われば組織が変わる

寺本 亜紀

寺本 亜紀

キャリアコンサルタント(国家資格)/2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)
マインドフルネス・カウンセラー
ライフキャリアネット®代表:http://life-career.net/

個人の方や企業の従業員などを対象として「自己効力感を高める」キャリアコンサルティングを行っている。そのほか、キャリアビジョンやマインドフルネス、ハラスメント予防などさまざまなワークショップやセミナーを開催。
大手企業向けの全社員研修用教材(セクハラ・マタハラ・パワハラのハラスメント予防、メンタルヘルスケア、ストレスチェック、新卒採用、ダイバーシティ、CSRなど)の企画・執筆・制作を経て、独立。
10年以上ライター・編集者として、大手出版社や大手教育出版社の特集記事を担当。映像翻訳家(字幕・吹替)、翻訳学校講師としても活動中。

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