今、再び注目が集まる組織開発。EQの高い組織づくりとは

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今、再び注目が集まる組織開発。EQの高い組織づくりとは
2017/12/04 (月) - 08:00
寺本 亜紀
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近年、再び組織開発に注目が集まっています。エグゼクティブコーチの松下信武さんは、EQの高いリーダーは、時代にあった柔軟な組織づくりができるといいます。そもそも組織開発とは何なのか、なぜいま、組織開発が求められているのか。本連載の第5回目となる今回は、組織開発をEQの観点からお話しいただきます。

プロフィール画像

ゾム 代表

松下 信武(まつした のぶたけ)さん

1944年大阪生まれ。1970年京都大学経済学部。
三洋化成工業入社、学習塾経営、ベルシステム24執行役員・総合研究所長を経て、現在ゾム 代表。
2016年まで約14年間、日本電産サンキョー スケート部のメンタルコーチを担当し、冬季五輪に3回参加。2010年バンクーバー五輪での長島圭一郎選手銀メダル、加藤条治選手銅メダル獲得に貢献する。
日本のエグゼクティブ・コーチングの創生期から活躍。2017年現在、月平均10名以上のエグゼクティブ・コーチングを行っている。
『感情と行動に働きかけるEQコーチングのスキル』『エグゼクティブ・コーチング』『ホメ渡部のホメる技術7』など著書・監修多数。

組織開発ブームの再燃。時代にあった組織づくりが求められている

―40年ほど前にも組織開発ブームがありました。いま、再び注目される理由とは?

僕は社会学者ではないので、個人的な見解として話をします。
歴史を紐解くと転換期には必ず新しい組織が出てきています。いま、再び組織開発が求められるのは、IT(information technology:情報技術)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(artificial intelligence:人工知能)といった新しい技術がでてきたこと、日本企業で長年定着していた終身雇用や年功序列の働き方が変わってきたことなどが関係していると思います。これまでの組織の形ややり方が通用しなくなり、周囲の環境や時代にあわせた組織づくりが必要になっているのでしょう。

たとえば、応仁の乱では足軽が活躍しました。これは、貴族社会が没落して、社会構造が変わったこと、農業の発達により長期間、兵隊を維持できるようになったことなど、大将中心の騎馬戦から足軽中心の総力戦へと時代にあわせて組織の形が変わったからです。
その後、戦国期になると鉄砲がでてきた。そうすると、鉄砲隊をつくらなければならない。当然、鉄砲の製造力や火薬の運搬技術が必要になります。

つまり、時代によって組織全体の仕組みを変えなければ生き残れないということです。

現在のITやIoT、AIといった技術は、戦国期における鉄砲です。この技術を使いこなすために、時代に適した組織づくりをしなければならない。それでいま、再び組織開発が求められているのだと思います。

―松下先生が考える「組織開発」の定義について教えてください

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僕が考える組織開発の定義は、「リーダーを核として、狙っている組織をつくるプロセス」です。
これは、特定非営利活動法人(NPO)アイ・エス・エル(ISL)を創設された野田智義さんのリーダーシップ論に基づいた考えです。
野田さんは、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士号(MBA)、ハーバード大学経営学博士号(DBA)を取得され、ロンドン大学ビジネススクールなどで助教授を歴任された方で、世界の教育事情をすべてご存知です。僕は2002年から講師やコーチとしてISLに関わっていますが、野田さんのリーダーシップ論はとてもよいと思っています。

組織開発にはリーダーの想いが非常に大事なんです。リーダーが理想とする想いを胸に、ひとりで歩み始める。すると周りに人がどんどん集まって来て、組織が大きくなっていく。そんなイメージです。これはトップダウンとは違います。
「狙っている組織をつくるプロセス」では、どのような企業文化を持って、どのような人材によって構成される組織をつくるか、それを考えることが重要だと思います。

組織開発と切り離せない人材開発と組織防衛

―組織開発と人材開発の違いを具体的に教えてください

スポーツのメンタルコーチをしているので、その違いは明解です。
組織開発は、勝つためのチームづくりです。野球にたとえると、勝つために監督がどういうチームづくりをするか、それを明確にすることが大切です。
ホームランで勝つチームづくりでは、長打力のある選手を中心に集める。機動力で勝つチームづくりでは、足の速い選手をそろえる。ピッチャーは、先発、中継ぎ、抑えをそろえる必要があります。

リーダーが、勝つチームをどのようにつくりたいのか、それによりスカウトの時点で選手の選び方が変わってくるわけです。
企業の場合は、勝つことは利益をあげること。そのためにどういう組織をつくるのか。組織づくりに必要な人材を採用するところから考えていく。これが組織開発です。

人材開発は、チームが勝つためにその選手をどう育てるかです。人が育たないと組織開発はできません。そして、部下の質が上がらないとリーダーの質は上がりません。
そういう意味では組織開発と人材開発は切り離せません。

―松下先生は組織の長として、どのように組織開発を行われましたか?

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僕が株式会社ベルシステム24の総合研究所所長兼ベルカレッジ校長をしていたときに、組織の長として目標としたのは、創造性の高い組織をつくることでした。創造性を高くするために一番必要なのは自立です。各研究員が自分で考えて行動できる組織づくりに焦点を絞りました。一方的なトップダウンでは創造性も自立も望めません。

具体的には、部下の研究員と徹底的に話し合いました。所長室のドアを常時開けて、自由に出入りして話ができる環境をつくったり、研究員が発表する場を設けたりしました。研究内容の良いところを褒めるようにしていたので、研究員はチャレンジングなことをやり始め、自分で考えて行動するようになりました。

企業の研究所の場合、社内から絶えず研究所廃止論が出ます。だから組織防衛も必要でした。組織防衛では、存在理由を明確にすることが大切なので、各部署が研究所を必要だと感じるように働きかけていきました。

たとえば、僕はEQジャパンに勤めていたときから講師やコーチングをしていたので、社内で研修やコーチングをするサービスを始めました。各部署で困っている問題を聞き取り、改善の提案や支援をしたんです。地方の各支社も回りました。
僕はEQジャパンで営業もやっていました。まあまあの営業力があったので、ベルシステムでも、営業のお手伝いもしました。研究所ですから売上のノルマはなかったので、受注した売上は営業部に渡しました。そうすると周囲が協力してくれるようになっていきました。
ベルカレッジでは、人材開発のために、研修担当者と一般社員向けに勉強会を開催して、社員のスキルを高めました。
こうして他部署に働きかけをしていくうちに、研究所は役に立つということが社内で周知されて、廃止論は出なくなりました。

しばらくすると研究員の研究の成果が出始めたこともあり、廃止どころか増員が認められるようになったので、人事にかけあって社内で人材公募システムをつくりました。公募では、モチベーションが高くやる気のある人材が多く集まってきたので、研究所の雰囲気がガラッと変わりました。
こうして就任当初に狙った「創造性が高い自立した組織」をつくり上げていくことができたのだと思います。

感情を知り行動する。判断力や推理力、論理的な思考力を高めるEQ

―組織開発のために何が必要だと思われますか?

僕が行っているのは、組織開発のなかでもコミュニケーションの部分です。だから、組織開発にはEQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)の向上が必要だと考えています。
EQの高い組織は、部下が自分で考えてのびのびと仕事ができるので、より良い組織へと変わっていきます。

2017年のノーベル経済学賞を米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が受賞したことで、行動経済学が注目されましたが、EQはまさしく行動経済学的な発想なんです。
近代経済学では、感情と理性は切り離され、人間は理性的で合理的な判断を下すとされてきました。ところが心理学を応用した行動経済学では、人間は常に理性的な判断をするとは限らない、行動するときに非合理的な意思決定をすることもある、経済は感情で動いていると発表されてみんな驚いたわけです。
実際、感情を押し殺すと理性が働かないという研究結果もあります。感情の部分を整理しなければ理性の部分が生きてこないわけです。こうした感情に関わる理性がEQといえます。

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たとえば、成果がでないからと低い評価をされた社員は、「確かにその通り“だけど”」と思う。その“だけど”の部分を丁寧に説明しないと、人は納得して動きません。評価をしたらフィードバックをすることが大切なんです。

EQは知能と一緒で、経験や学習とともに発達していきます。教育やトレーニングにより、感情を整理して理性的で合理的な行動ができるようになります。

―組織開発でEQを活かす具体的な方法とは

組織の問題点を探して、改善点を見出すことです。現場では必ず再生の芽があります。
人事異動で期待していた部署にいけずにくさることがあると思います。半導体企業に勤めるAさんもそんな一人でした。
Aさんが部長として配属された部署は、膨大な量の古い半導体の在庫を抱えていました。 こうした状況では、左遷された、飛ばされた、これで出世の道は閉ざされたと、ネガティブに考えてしまう方も少なくないでしょう。
ところがAさんはそういった自分の感情に素直に向き合って、その部署を再生するという逆転の発想をしました。
新しい半導体は性能がぶれます。一方、古い半導体は少し性能が落ちても安定しています。それに、古い半導体は減価償却がほぼ終わっているので、利益率が高い。Aさんはそこに着目して戦略を立てた。そしてすべての在庫を売ったんです。
AさんのようにEQが高い人は、感情を整理できるのでこうした柔軟な発想ができます。
誰でもネガティブな感情になります。その感情に素直に向き合うことが大切なんです。そして改善点を考えて行動する。成功すると面白くなってくるので、良い循環が生まれます。それがEQだと僕は思っています。

―EQコーチングでは、どのような効果が期待できますか?

僕はいま、外部コーチの立場から組織開発を支援しています。エグゼクティブがEQの能力を伸ばすことが大切なので、EQコーチングでは、エグゼクティブの感情に焦点を当てることから始めます。
コーチィ(コーチングを受ける人)は自身の感情の扱い方を知り、判断力や推理力、論理的な思考力を高める効果が期待できます。
エグゼクティブは、意思決定さえ間違わなければ上手くいくんです。ところが感情が乱れてくると的確な意思決定ができなくなる。
感情は必ず信号を出しています。その信号を無視して、感情を押し殺すと余計落ち込むことになります。落ち込むのは自然なこと。それが健全だと考えればいいんです。
EQコーチングでは、その感情に基づいて対処をして、的確な意思決定をできるように働きかけます。

また、コーチィがコントロールできることと、できないことに分けて考えられるように働きかけます。
土日など仕事が休みの日にはエネルギーを回復するために、ゴルフなど好きなことをして過ごすことが大事なんです。
悪い状況をなんとかしようと休日返上で仕事をしても、健康でなかったら感情も理性も働かなくなるので、上手くはいきません。
ITやIoT、AIの時代にあわせて、EQの高い組織づくりを柔軟に行うことが重要だと思います。

※参考文献
松下信武(2005)『感情と行動に働きかけるEQコーチングのスキル』あさ出版 近日電子書籍化決定

 

【 過去4回の連載記事はこちら 】

<第1回>50歳を過ぎて迎えた人生の転機。コーチング創成期から活躍する松下信武さんの生き方

<第2回>エグゼクティブ・コーチング。リーダーが変われば組織が変わる

<第3回>ビジネスに活かすメンタルコーチング。部下の能力を引き出す方法

<第4回>「ねたみ」の強力なパワーを活かし、ビジネスで一流になる方法

寺本亜紀氏プロフィール写真

寺本 亜紀

キャリアコンサルタント(国家資格)/2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)
マインドフルネス・カウンセラー
ライフキャリアネット®代表:http://life-career.net/

個人の方や企業の従業員などを対象として「自己効力感を高める」キャリアコンサルティングを行っている。そのほか、キャリアビジョンやマインドフルネス、ハラスメント予防などさまざまなワークショップやセミナーを開催。
大手企業向けの全社員研修用教材(セクハラ・マタハラ・パワハラのハラスメント予防、メンタルヘルスケア、ストレスチェック、新卒採用、ダイバーシティ、CSRなど)の企画・執筆・制作を経て、独立。
10年以上ライター・編集者として、大手出版社や大手教育出版社の特集記事を担当。映像翻訳家(字幕・吹替)、翻訳学校講師としても活動中。

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