起業家精神の育まれる現場をコーディネート ‐ETIC.事務局長 鈴木敦子氏
SELFTURN ONLINE編集部
2018/02/17 (土) - 07:00

2018年2月23日から3月11日に東京ミッドタウン・デザインハブで開催される「地域×デザイン2018」において、SELF TURN実践者または地方で多様な働き方を推し進める企業を、「SELF TURN× Work Design Award」として表彰することが決まりました。起業家精神溢れる人材育成を担い続け、地域にて自分らしく働くことをサポートしているNPO法人ETIC.。事務局長鈴木敦子さんが同アワード「ソーシャルビジネス」部門の審査員に選出されたことを機にお話を伺いました。

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鈴木 敦子(すずき あつこ)さん

早稲田大学在学中にETIC.の前身「学生アントレプレナー連絡会議」に参画。大学卒業後起業するも、ETIC.の事業化とともにETIC.に専念。理事兼事務局長を務める。

ETIC.の事業化に至るまで

――ETIC.の事務局長に就任されるまでのキャリアについて教えてください

ETIC.との出会いは学生時代に遡ります。当時はバブル崩壊後の就職氷河期第1期といわれ、「内定がもらえないからお先真っ暗」「私たちどうしていくの?」などという話をしていました。その頃に、就職をするという選択のほかに、“仕事を自分でつくる”「起業家」という生きざまがあることを知りました。

起業したいと思った私は、同じ大学で現ETIC.代表の宮城(宮城治男代表理事)が旗揚げした、起業を志す大学生を中心にした「学生アントレプレナー連絡会議」というネットワークに参加し勉強していました。今理事になってくれている孫泰蔵さん(現Mistletoe代表取締役)、ほかにも高島宏平さん(現オイシックスドット大地代表取締役)、野坂英吾さん(現トレジャー・ファクトリー代表取締役)など、その当時の異端児たちが一緒に勉強していました。事業計画書の書き方など、この勉強会で学びましたね。

そして自分で起業し、ルームシェアのコーディネータをやっていました。インターネットが出始めたくらいの頃でしたので、マッチングも手動で、電話をかけたりしてやっていました。そんなある日、26~27歳くらいのときに交通事故にあって入院することになってしまい、それを機に自分の事業は畳むことにしました。退院してから、先述の宮城が任意団体としてやっていたETIC.(注:NPO法施行は1998年12月)に専念することになり、代表と事業部長はすでにいたので、じゃああなたは事務局長だね、ということで就任しました。

――ETIC.ではどのような事業をされているのですか?

代表の宮城は、自ら必要なものを自分で提案して、成功する・しないを含め自分で責任をもってやることが起業家としての生きざまであると考えています。こういう起業家精神を育ませるために最初にやり始めたのが、ベンチャー企業に長期実践型でインターンする学生のためのマッチング事業です。ちょうどネットベンチャーのブームに乗っかったような感じで、ニーズがあったことも幸いし、ETIC.も事業化に成功したのです。

ベンチャー企業へのインターンコーディネートは約3000人やっています。そのうち200人くらい、10%弱くらいが起業しています。Freeeの佐々木大輔さんもその一例です。インターンとして1年くらいお世話になって、経営者を身近にみるなかで起業家精神が伝播するのでしょうね。

いまでは、若者ベンチャー関連の事業の割合は全体の2割くらいになっています。社会起業が4割、地域の課題解決が4割くらいです。社会起業事業では起業塾をやっており、(NPO法人)フローレンスの駒崎弘樹さんやカタリバの今村久美さんなどが卒塾生ですね。

東北震災がひとつの契機に

――今回のアワードの選出要件にもつながるところかと思いますが、地域の課題解決に関する取り組みについて教えてください

東北の震災が起こり、「明日死ぬかもしれない」という感覚が現実味を帯びるなか「いま自分にとっての“働く”はこのままでいいのか」という思いが芽生えました。長い時間を仕事に費やすのであれば、一人ひとりが社会の一員として何か自分が必要だと思ったものを提案してやっていく、何でもつくっていけるという感覚で仕事をしていけるのはすごく楽しいことだと思います。自分で企画したものは何でも楽しいじゃないですか。

東北で多くのものが0ベースになったときに、東北復興に加担したいという右腕的人材を5年間で300人送りました。そのうち今も100人程度が東北に定着していたり、起業したりしています。

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ETIC.では地域に関すること、若者に関すること、そして社会起業(ソーシャル)に関することをやっていますが、これらを横串展開していけたらと考えています。それこそ、SELF TURNそのもののような気がします。

SELF TURN×Work Design Award受賞者表彰ポイントについて

――今回アワードの「ソーシャルビジネス」部門の審査員を担当していただきました。SELF TURNをし、ソーシャルビジネスを展開し地域課題の解決に尽力されている個人を表彰することになりましたが、どのような観点で選ばれたのでしょうか

今回選出した方は人材開発の大企業にお勤めで、先述の東北に送り込んだ300名のうちのひとりです。「東北をこうしたい」という思いが強くなったときに、会社を辞めていくというのもひとつの選択肢だったと思いますが、その方は休職という制度をうまく活用されました。復職したのちは、その企業のリソースを活用して東北創生に取り組むようになったのです。そのうち企業側が東北創生のための別会社を立ち上げることになり、その代表に就任されました。

――企業内起業みたいですね

まさにそうですね。企業内起業といっても色々なパターンがあると思います。大企業の戦略のなかで種まきをしておこうかという考えもあるでしょう。ただその方の場合、大企業の戦略ありきではなく本人がやりたいことありきという点が異なります。自分がやりたいと思うことを、大企業のリソースを引っ張ってきて課題解決する。その企業の売上に貢献しているかはわからないけれど、(別会社)単体でも成り立っていて持続可能である。これからこういう形があってもいいなと思い、選出しました。

慌ただしくとも、高い視座を持ち続ける

――地域で新しい事業を立ち上げようと考える人に、アドバイスをいただけますか

地域で新事業を立ち上げることは、東京よりも大変だなと支援していて思います。立ち上げて、継続していくために何とかキャッシュを回していく。これを2~3年やっていると逆に地域が殺さないというか、地域のエコシステムに入ってしまう感じがあります。死なせてくれません(笑)。(地域に)活かされるというのは、地域には若い人が少ないですから、一度若い人が来て「これやりたい」というと、それはもう食いつきがすごくなるわけです。そのときに渡せられる仕事が損得の世界じゃないことも多く、地域の重鎮にいわれたりするとたとえ厄介なことも断れない。もうパンパンになってしまうわけです。

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生き残っていくためには、大きなビジョンをみることが必要です。毎日慌ただしくなっていくなかでも、遠くの未来をちゃんと見て自分で形づくり、営業目標を達成していくというのがすごく大事だなと思います。埋没せず高い視座をもつということです。

自分らしくソーシャルビジネスを展開していくために

――今後、個人がイキイキ働くために必要なことはどのようなことだと思いますか?

遊ぶように仕事することです。自分の仕事が、自分が企画するホームパーティーのようにできれば楽しいですよね。
「OWNしていく」ための工夫として、すごく単純ですが「人の企画に乗っかるときも自分で企画書を書く」ことがあげられます。私自身も、ETIC.の皆に伝えています。

大きな企画のなかに自分がいち役割を担っているというときでも、自分がプロジェクトのオーナーになったつもりで企画書を書き直すということをしています。自分の頭で考え直すのです。これはどういう目的を達成するために集っている仕事なのか、どういう強みや弱みがあるのかを、自分の言葉で書き換え、作戦をたてる。自分はその一部の役割なのだけど、その役割が楽しく仕掛けていけるようになるのでおすすめです。

書くことで、びっくりするくらい自分のものになっていきます。ただ、仕事だから書くというのではだめで、本当の自分の気持ちで書くことが大事です。自分がやるとしたらという0ベースで書き直すことです。

――これから新しいことをやりたいという人にはいいトレーニングですね

はい。NPOに転職したい、地域に行って起業したいなど、今までと違うところで何かをやりたいという人に対しても同じ話をしています。行きたいと思う先で担う業務についてまず企画書をつくってみましょうと。書きながらわくわくしてくるようであれば「アリ」でしょう。なかには「書こうとしましたが書けませんでした」という方もいらっしゃるのですが、その場合実際入っても難しいと思います。イメージがわかないわけですし。

「自分のスキルを活かしたい、活かされたい」という願望をもっている方には、なかなか難しいのではと、支援していて思います。「活かされたい」からには何か再現性のあることをやりたいのだと思いますが、新しいことには再現性があるかどうかわかりませんので。

▼鈴木敦子さんが登壇されるトークセッションはこちら
パソナ東北創生 戸塚絵梨子 × ETIC. 鈴木敦子 トークセッション
2018年3月6日(火)18:00-18:50

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