情熱がもてるものに出会い、起業―日本ふんどし協会会長

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情熱がもてるものに出会い、起業―日本ふんどし協会会長
2018/02/26 (月) - 07:00
島崎 加奈子

ふんどしを締めたことはありますか? ふんどしといえば、テレビの時代劇やお祭りで見かける男性の姿。ですが、昨今のふんどしは、“リラックスウェア”として注目を集めています。その火付け役となったのが「日本ふんどし協会」会長の中川ケイジさんです。ふんどしへの情熱と、中川さん的、自分を大切にする仕事術を伺いました。

バチッと将来が見えた、美容師としてのキャリア

スタイリッシュなジャケットにネクタイ姿が素敵な中川さん。ですが、こう見えても下着は全て、日本の伝統的な下着……ふんどし。中川さんはふんどしを普及させる「日本ふんどし協会」の会長と、おしゃれなふんどし「SHAREFUN(しゃれふん)」を販売する会社を経営しています。なぜこの時代にふんどしだったのでしょうか?まずは軌跡を追っていきます。

「大学に進んだものの、就職活動はボロボロで、そのときたまたま放送していたテレビドラマの影響でピンときて美容師を目指しました」

卒業間近の土壇場で、畑違いの美容師を目指すなんてすごい勇気をもっていたのだろうと思いきや、もともと「組織ではなく個人の力で食べていきたい」という意思が強かったという中川さんにとって、美容師という職業は、天職のように見えていたそう。
大学卒業後に無資格のまま美容室に入社した中川さんでしたが、専門学校卒業の年下の先輩に囲まれていても、美容師を目指すことに迷いはありませんでした。

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「“いつか独立して、神戸のスタバの上にお店を出したい”というはっきりとした夢がありました。そのためにいまお客さまに支持される美容師になる。将来もバチッと見えていました」

ところが、美容師としてのキャリアを確実に重ね、自信もついてきた30歳のときに転機がやってきます。小さいころから憧れていた自身のお兄さんから「うちの会社で働かないか?」と誘われたのです。中川さんは「将来美容室を経営するうえでも、営業の経験は役に立つだろう」とお兄さんの経営する東京の営業会社へ転職することにしました。

大の大人にふんどしを見せられて、心から笑った自分がいた

上京した中川さんは自信に満ちあふれ、社長の弟の看板を背負って精力的に働くつもりでいました。ですが、なかなか成果が出ない。当時のつらい時期を振り返っていただきました。

「その当時は、頑張ることは時間をかけることだと思っていたんですよね。それでもどれだけ時間をかけてもできないから、その原因は自分にあると思っていて、毎日落ち込んでいました」

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お兄さんの会社で働いていた当時の中川さん。早く成果を出すことに必死でした

そんな生活を3年。会社にいくのもどんどん億劫になって、心のバランスを崩しかけていたある日のこと、取引先の社長さんが自分の下着について話し始めました。

「『私は下着はふんどしに変えてから、すっごく調子がいいんだ!』といって、大の大人が目の前でスボンを脱いで、下着を見せたがるんです。ズボンの中から赤いふんどしが出てきて、びっくり。でもだんだん僕も面白くなっちゃって、久しぶりに腹の底から笑ったんですよね。ふんどし一枚で人はこんなに会話が弾むものなんだ!って思いました」

それから中川さんもインターネットで見つけた赤いふんどしを購入。履いてみると、通常の下着のようなゴムによる締め付け感がなく、とっても気持ちがいい。会社のストレスから開放されて、久しぶりにゆっくり眠ることが出来たといいます。

鬱の診断。他人の人生を生きている自分と距離を置く

ふんどしに出逢ったからといって、すぐに仕事までうまくいくわけではありませんでした。中川さんは2011年3月の東日本大震災をきっかけに、さらに気持ちが落ち込んでいきます。

「地震が起こって、いつ死ぬかわからないんだなと思ったら、このままじゃいけないな、やりたいことをやらないと…と考えるようになりました。当時僕は、兄の夢を手伝うなかで、他人の人生を歩いているような気がしていたんです」

5月にはついにドクターストップ、診断結果は鬱(うつ)。中川さんはこの診断を聞いたとき、ホッとしたといいます。お兄さんのために、弟として恥じないように仕事をしていた自分と距離を置く時間が出来ました。

おしゃれなふんどしがあったらいいのに、をビジネスに

「妻は働きに出てくれていたので、鬱になってからは、一人で家にいて何にもしない時間を約半年も過ごしていました。でも、散々休んでいると何かをしないといけないっていう気持ちが出てきて、紙に “やりたいこと”と“やりたくないこと”をそれぞれ書いていったんです。そしたら、やりたいことはあんまりなかったんですけど、やりたくないことはたくさん出てきて……やりたくないことをやらずに自分が仕事をしていくためには、起業するしかないと思いました」

では何で起業するのか? そこで思い出したのが、取引先の社長が自慢するように見せてきたふんどしから始まる会話や楽しい光景。はじめてふんどしを締めたときの快適さとゆっくり眠れた夜のこと。

一瞬でも自分を救ってくれたふんどしでしたが、「この感動を伝えたい、いろんな人に締めてほしいと願う一方、インターネットで購入しようと調べても赤いふんどししかなく、このままでは人に勧めるのは難しいと思った」と中川さんはいいます。そこで思いついたのが、おしゃれなふんどしをつくるというビジネスでした。

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カラフルにたなびく、ふんどしの数々。今までのふんどしではあり得ないものだったそう

お金はなくても、とにかく熱意を伝える

中川さんが動き出したのは、2011年12月。ドクターストップがかかってから半年が経過していました。
「ふんどしを普及させたい、おしゃれなふんどしをつくりたい!」というビジネスのイメージは出来ても、商品づくりに、ふんどし販売サイト作成、広報活動…。何をするにもお金がかかります。貯金もほとんどないなかで、どうやって作業を進めていったのでしょうか。

「とにかく熱意を伝えました。生地のメーカーさんには、ふんどしを締めたときの快適さや、ふんどしが人を幸せにするものだということを伝えて…。お金はないのですが、売上が出来たら必ず支払いをするのでつくってほしいと頭を下げました。熱意が伝わると、了承してくれる人もいて、どんどん道筋が見えていきました」

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素材にもこだわったシャレフンのふんどしは、通気性も良く、男女ともにとっても可愛いデザイン

製造ラインの確保の次は、売れる仕組みづくり。ふんどしは既に過去のものという認識のなか、ふんどしの快適な機能性を伝えたり、注目されるような話題をつくっていかなければなりません。そこで中川さんは、「日本ふんどし協会」を立ち上げ、さらに2月14日の「ふんどしの日」も制定しました。

「たまたまなのですが、2(ふん)、14(どし)で2月14日。だからバレンタインのこの日はふんどしをプレゼントする日にしよう!と勝手に決めました(笑)」

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実際のバレンタイン期間に開催された、百貨店でのふんどし売り場。まさかふんどしだとは思えないポップなつくりがかわいい

バレンタインはチョコレートではなく、大切な人に、自分を大切にする下着・ふんどしをプレゼントする日。なんともユニークですが、想いはとても素敵です。さらにこの日には、ふんどし普及に貢献した著名人に贈られる「ベストフンドシストアワード」なるものも設けたそう。

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ベストフンドシストになるためには、普段からふんどしを愛用していることなどが条件となっているとか

中川さんの熱意は、あらゆる人を動かし、巻き込んでいく力に変わっていきました。ふんどしの話題はヤフーのニュース記事に始まり、おもしろグッズとして少しずつ認知されていきます。

自分を大切にできるアイテム、ふんどし

初めの3年間はどんな取材でも受けて、とにかくふんどしを発信。その一方、自分がふんどしに救われた経験を医療的な目線で医師に解説もしてもらいました。その甲斐あって、今ではふんどしはリラックスウェアとして、自分を大切にできるアイテムとして利用者が増えてきています。

「ふんどしは、鼠径部(そけいぶ=太ももの付け根)にゴムをつかわない下着。なので血管を圧迫することがないので血流がよくなり、むくみや冷え性といった悩みを解決することができます。また、寝ている間に履くことをお勧めしていますが、それは睡眠の間身体を締め付けずにいられる時間ができて身体はリラックスした状態になりますから、そうするとぐっすり眠れて安眠できます」

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睡眠専門医の観点から、夜寝るときにふんどしを着用することのメリットを解説してくれている雨晴クリニック副院長の坪田聡(さとる)先生

はじめてふんどしを締めたときの中川さんが感じた驚きは、医療的にみても間違いのないことだったようです。ちなみにかくいう筆者もふんどしを締めてみましたが、この快適さは病みつきになりますので、友人にもお勧めしています。

しんどいなら、休むことも大切

目の前の仕事に真面目に向き合うがあまり、自分らしさを見失い、がむしゃらになって辛い思いをしている方はいませんか? もちろんがむしゃらにならないと見つからないこともありますが、本当にしんどいときは、休んでもいいと中川さんは話します。

「自分のパッションがゼロとか、マイナスになっているときは、どれだけ掛け算してもプラスにならないと思うので、プラスになるまで待てばいいと思います。『これだ!』って、自分の中から湧き出てくるものがそのうちあります。今思えばですが、僕は人のいうことに左右されてしまうので、自分は何が好きなのかとか、向き合う時間がなかったんですよね。だから何もしない時間を過ごすなかで、自分の答えを探すことができました。しんどいなら休むことも大切だと思いますよ」

中川さんは2015年に、奥様の実家がある茨城県水戸市へ移住。生活にかかる固定費を抑えられるメリットに加え、子育てのことも考えると自然豊かな土地で暮らすことも大切だという考えがありました。週に1回は商談や打ち合わせなどで東京へ通うという生活を送っていますが、1時間半で通えるのでそんなに負担はないといいます。このように生活環境を変えてしまうことも、自分を休ませる方法の一つなのかもしれません。

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最近は子育てが楽しすぎるという中川さん。休日は息子さんとおでかけ

美容師になると決めたときのように、自分の進むべき道を自分で見つけたことで、再び中川さんの情熱に火がつきました。美容師、営業マンを経て、現在はふんどしの普及。人生はどう転ぶのかわかりません。情熱がもてるものに出会い、かつ自分自身が幸せに生きる方法はひとそれぞれだと思いますが、ふんどしを締めて何にも縛られることなく、自分と向き合ってみてもいいのかもしれません。

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中川ケイジさん

大卒→美容師→ダメサラリーマン→鬱→ふんどしに救われる→ふんどしで起業。(社)日本ふんどし協会会長。TVなどで話題の寝るときだけのリラックスウェア、おしゃれなふんどし「SHAREFUN®(しゃれふん)」を企画製造販売。子育てのために2015年に都心から茨城県水戸市に移住。週に一度の東京出張で新しい働き方を実践中。
SHAREFUN®(しゃれふん)
日本ふんどし協会
中川ケイジブログ

島崎加奈子

島崎 加奈子

和文化プロデューサー・フリーライター。着物販売、広告代理店を経て、“きものでかける“という着物のおでかけイベント団体を主宰する傍ら、次の世代に”日本の良いものを伝える営業マン“として、専門学校講師、スタイリスト、和文化と中心としたイベントやメディアの企画・運営に携わる。

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