日本人に“日本”のことを伝えていきたい。ライター兼お香と水引アーティスト

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日本人に“日本”のことを伝えていきたい。ライター兼お香と水引アーティスト
2018/05/01 (火) - 07:00
島崎 加奈子

2004年にフリーライターとして独立した岡本英子さん。順調にキャリアを積みながら、ここ数年でお香や水引といった日本文化を伝えるアーティスト活動やブランド「香紡縁(こうぼうえん)」を立ち上げ、日本全国でワークショップなどを行うようになりました。ライターとアーティスト、マルチな活躍を可能にする仕事への考え方と日本文化への思いを伺いました。

香水への興味と、ライターとしてのキャリアの始まり

化粧品会社に勤めていた父親の影響で、小さい頃から化粧品に囲まれていたという岡本さん。学生時代には、当時まだ日本では馴染みの薄かった香水マーケットを卒業論文のテーマにしたほど香水が好きだったといいます。

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「卒論を書くために、いろいろな化粧品メーカーに出向いたり、電話でインタビューさせてもらったりして香水について調べました。でもまだまだ日本では香水の市場が小さすぎて、発展性がないように感じ、当時は仕事にしようとまでは考えていませんでした。一方で、その卒論をきっかけに、何か調べたり書いたりすることが好きになり、ライターの仕事に興味をもつようになりました」

大学卒業後は化粧品専門のマーケティング会社や企画編集プロダクションで勤務。社会人5年目の頃、いずれはライターになりたいという希望を周囲に話していた岡本さんのもとに、ラジオのショッピング番組の台本を書く仕事が舞い込んできました。これを機に岡本さんは、ライターとしてのキャリアを本格的にスタートすることになりました。

フリーライターで独立、初めて香りの仕事に

ラジオの台本の仕事を始めて5年ほど経った2004年、岡本さんは企画編集プロダクションを退職し、フリーライターとして独立を果たします。自分の名前でチャレンジできる環境は、毎日充実していたといいます。

そんな岡本さんの更なるターニングポイントがやってきたのは、2012年に友人が経営していた企業と業務委託契約をしたとき。その会社は海外に本社がある日本法人。ホテルや商業施設のエントランスなどの空間を香りで演出し、ブランディングをするビジネスを展開していました。特定の香りを嗅ぐと、場所や人を思い出すような経験は誰もがあると思いますが、これをビジネスで展開していくことは海外では一般的なブランディングの手法なんだとか。

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とはいえ、日本ではまだ始まったばかりのビジネスだったので、岡本さんは本業のライターとしてだけでなく色々な仕事を任されることになります。

「その会社にいたときに初めて大好きだった香りを扱う仕事ができたのですが、海外の企業が演出として香りを用いるのに対し、日本はタバコや食べ物の匂いの消臭するために香りを使う傾向にあることを知ったのです」

実際に、某外資系ホテルのエントランスで使用されているアロマオイルについて、「自宅でも使いたい」というお客さまの声から発売されたアロマオイルが爆発的に売れたこともあったそうです。ですが、こういった実績があっても、香りでその場を演出、デザインをするという考えを日本の企業に理解してもらうことは難しいケースも多く、もっと柔軟な考えで香りをみてほしいと岡本さんは思っていたそうです。

一つひとつに意味がある、お香の文化を伝えたい

「ブランディングのマネージャーとして企業に出向いたとき、『日本には香りの文化がない』などの理由で提案を断られたことがあって、私は“そんなことない”と思いながらも、具体的に返答できませんでした。相手を説得するだけの材料をもち合わせていなくて、それが日本の香りの文化を調べようと思ったキッカケでした」

取引先の人に納得してもらいたいとの思いで、日本の香りについて調べるうちに「お香」の学校があることを知った岡本さん。まずは入学前に学校主催のワークショップに足を運ぶことにしました。

「学校に通って驚いたのは、たくさんの種類のお香があることでした。防虫や消臭などの機能性のあるお香、供養するお香、遊びで使う楽しむお香とか。唯一知っていたお線香も、煙が天に上ることで死者への供養になるという意味があったんです。何も知らないで小さい頃からお線香を使っていましたが、こういったことがヨーロッパなどの香水やアロマとの違いでもありますね。学べば学ぶほど、いままで日本の文化のことを知らなすぎたと痛感しましたし、お香の魅力や意味などを次の世代に伝えられるような大人になりたいと思うようになりました」

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お線香の煙は「天へ思いを伝える手段」、「亡くなった方の食べ物」などの考えもあるそう

このお香の学校は1年通うと、「香司(こうし)」として活動できるプログラムになっており、将来的には自分で香りをつくったり、つくり方を教えたりもできるそう。それまでは「この香りが好き」というファッションの感覚で香りを楽しんでいた岡本さんでしたが、お香を通して知る日本文化を一つひとつ紐解くと他の文化につながりが見え、この増えていく知識をたくさんの人に伝えたいという気持ちが増していきました。

平日はいままで通りの仕事をこなし、週末はお香の学校へ通う生活を1年。学校卒業後は業務委託契約の仕事を辞め、ライターと香司を兼業して、日本文化を伝える仕事をスタートしました。

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日本全国を回ることもあるという岡本さんのワークショップの様子。お香の歴史や用途などを学びながら、10種類以上のお香の原料をブレンドして自分の香りをつくることができるそう

思わぬ人気を見せたお香の飾り、水引細工

「お香は見ただけでは香りが伝わらないので、少し難しさを感じていました。見た目もちょっと地味ですしね(笑)」と、活動をスタートさせて1年ほど経っても、お香を広めることは難航していたそう。そこで工夫を加えたのが、ご祝儀袋などで使われている水引細工をお香の包み紙などにつけて可愛く見せることでした。

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お浄めのお香として知られるオリジナルブレンドの塗香。色とりどりの水引が付いているだけでカワイイ印象に

「友人からのアドバイスで水引を扱うようになったのがキッカケなのですが、水引も結び方や使う本数、使い方などを調べていくと意味があるので、改めて日本文化って素敵だなと思うようになりました。見た目も可愛くて写真映えしますし、日本文化に馴染みのない方でも体験しやすいみたいですね。いまでは水引でつくるご祝儀袋やピアス、ヘアアクセサリーなどのワークショップの依頼がお香よりも多くなっています」

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水引で作ったお花モチーフのかんざし。ワークショップは人気でキャンセル待ちになることも

自ら学びたいと入学し、確かな知識を身につけて出発したお香でしたが、流行も相まって水引がいつの間にか盛り上がっていったという仕事の依頼。想定外の出来事ですが、ここに岡本さんらしく働く鍵があるようです。

周りからの価値に“乗ってみる”ことで広がる世界

自ら営業することが苦手だという岡本さんは、その代わりにライターとしても、日本文化のお仕事でも、一つひとつの仕事を納得するまで丁寧に、確実に実績を積んでいくことを心がけているそう。すると、一つの仕事の縁が新しい仕事につながることが少なくないといいます。周りからの新しい仕事やアドバイスに対して、面白そうだと思ったら、とりあえず試してみる“調子の良さ”を大切にしていると話してくれました。

「自分で思っている自分の価値と、相手が評価する価値は違うこともあるので、相手が見てくれている価値にちょっと“乗ってみる”と自分の世界や仕事を広げてくれるチャンスになることもあると思います。お香は自分でやりたくて学校に入ってみたものの、仕事として広げていくのが難しいと感じることも多くて。一方の水引は周りからの勧めで始めたらいつの間にか私の仕事になっていました」

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こんな風にカワイイお香があってもいいかもと、可愛くポップに改良を重ねている

ライターの仕事も、お香も水引も、少しでも興味が湧いたら吸収してみるという姿勢がマルチな活躍の秘密のようです。

これからも続けていきたい「伝える」という仕事

自分の生まれた国のことで、自信をもって伝えられることはありますか? 知っていることが増えると、新しい世界が広がっていきます。それが自分の国の文化であれば、また別の人に伝えたくなることでしょう。

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言葉の言い回し、香りの調合も、水引の色の取り合わせも、少しの違いで個性が出る。日本人の豊かな感性が生み出した文化はとても繊細

文章を書くこと、お香、水引…出来上がるものは違っても、「伝える」という共通した仕事だと岡本さんは考えているそう。

「これからも日本人に日本のことを伝えていきたいですね」そう語る岡本さんのように、自身の興味や周りからの要望に柔軟に対応していくことで、拓けていく世界が誰にでもあるのかもしれません。

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岡本 英子(おかもと えいこ)さん
香司・水引アーティスト

大学で「香水」をテーマに香りについて研究。
2012年〜2014年、Air Aroma Japan株式会社ブランドマネージャーとしてホテルや商業施設などの「空間×香のデザイン」の演出、PR、アロマ講座講師などを担当。2015年より「薫物屋香楽認定 香司」として、お香づくりの講座を開催。また、水引の美しさに魅了され、アクセサリーをはじめとした水引細工を手がける。

島崎加奈子

島崎 加奈子

和文化プロデューサー・フリーライター。着物販売、広告代理店を経て、“きものでかける“という着物のおでかけイベント団体を主宰する傍ら、次の世代に”日本の良いものを伝える営業マン“として、専門学校講師、スタイリスト、和文化と中心としたイベントやメディアの企画・運営に携わる。

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