日本語のうつくしさを世界中に広める。書家兼デザイナー

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日本語のうつくしさを世界中に広める。書家兼デザイナー
2018/05/17 (木) - 07:00
(株)くらしさ 長谷川 浩史&梨紗

子どもの頃に習い事として続けていた書道を大人になってから再開し、いまではそれを仕事にしている國廣沙織さん。書家として日本語の奥深さを伝えると同時に、ひらがなをモチーフにしたアクセサリーやロゴ制作を手掛けたりするなど、活動の幅を広げています。「もともと書道は好きなものだけど、仕事にできると思っていなかった」と話す國廣さんが、現在の仕事にたどり着くまでのストーリーを紐解きます。

26歳まで過ごした広島での日々

広島県広島市出身の國廣さんは、小学1年生から高校3年生まで書道を習っていました。

「子どもの頃は習い事をたくさんしていました。ピアノ、エレクトーン、体操、水泳、そろばん…ただどれも長くは続きませんでした。そんななか、書道は周りの友人がみんな行っていたこともあり、ずっと続けていましたね」

そう話す國廣さんが就職先として選んだのは建築系の会社。しかし、残業や休日出勤も多く、働き詰めの毎日が続いたそう。それでも「3年は続けようと頑張りました。ただ1つの橋を造るのに時間もかかるし、関わる人も多くて、自分が携わっているということをあまり感じられませんでした」と当時を振り返ります。

そんな頃、プライベートではじめて香港へ一人旅をしたときのこと。
「歳の近い台湾人と出会ったんですが、その子は母国語のほかに英語も日本語も話せて。もっと自分も外の世界を見てみたいと思うようになりました」

國廣さんは留学準備のためにお金を貯めたり、着付けを習ったりするように。同時に書道も再開しました。
「留学後には書道を仕事にできたらいいなと考えていて、自分の作品を持っていきたいなと思って、分野の異なる先生の書道教室に4つ通いましたね」

その後、2011年4月からの半年間、國廣さんはロンドンへ留学。26歳のときでした。

ロンドンで見つけた書道の可能性

「当初はワーキングホリデーで行くつもりだったんですが、それが難しく、観光ビザで滞在できる最大半年間を過ごすことになりました。前半は語学学校に通い、後半は旅をしていたんですが、日本食レストランに自分の作品を展示してもらったり、ロンドンで行われている日本文化のイベントに参加したりもしました」

國廣さんはそのイベントで、外国の方の名前を漢字で書いてあげて、本人に書いてもらうというワークショップを開催。
「3日間で150人くらい実施したんですが、すごく喜んでもらえて。私もとっても嬉しかったです」

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自分にしかできない新しい形の書道教室

帰国した國廣さんは上京し、書道で食べていく道を模索します。
「この歳で来たからには、来た意味を残さなきゃという焦りもありました。そんなとき、友人から名前の見本を書いて欲しいと頼まれて、そこから『籠中会(ろうちゅうかい)』のアイデアが生まれました」

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「籠中会」は2013年の冬頃から國廣さんが始めた書道教室のことで、自分の名前を5つの書体で書くという内容です。

「中国に“自家薬籠中の物”ということわざがあって、『自分の薬箱の中にある薬のように、自分の思うままに使える物、または人のこと』を意味するんですが、その時々に応じていろんな書体で自分の名前を書けるようになりましょう、というコンセプトでワークショップをしています」

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「一般的な書道教室はほかにもありますし、自分にしかできないものをやりたいと思って考えたときに、私が書道を好きな理由を考えてみたんです。そしていろんな書体があってそれぞれに良さがあるということに行き着いたんですが、それに共感してもらいたくて『籠中会』を始めました」

“お祝儀袋に綺麗に名前を書けるようになりたい”などの要望や、自分の名前という身近なテーマもあって籠中会は30〜40代の女性を中心に好評を呼び、開始から3カ月ほどで外部からの依頼も来るようになったといいます。そして、これまでに全国のカフェなどで150回ほど開催してきたそう。

「Hiragana」の誕生

街を歩いていても、看板などの文字を見かけては気になってしまうという國廣さん。将来的に書家として自分の作品をホームページに載せられるようにと、2014年の秋頃からはグラフィックとWEB制作の専門学校に通うことに。

「学校の課題で、自分の名前で名刺のデザインをつくるというものがあったんです。私はもともとある文字をデザインでカッコよく見せたいと思って、ひらがな文字を縦につなげたデザインを考えました。そしてそのときに考えたデザインを、レーザーカッターで加工してピアスにしてみたんです。日本特有の文字であるひらがなの曲線のうつくしさを伝えたり、書をもっと身近に感じられたらいいなという想いがありました」

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実は國廣さん、以前に知り合いのアーティストが名前入りの帽子をかぶっていた様子を見て、いいなと思っていたんだそう。

「製作者が自ら語らなくても、それを身につけているだけで話題になれるものっていいなと感じていました。それでピアスをつくって写真をSNSに載せてみたら、拡散して、その日のうちに『欲しい!どこで買えるの?』と話題になったんです。これは商品化するしかないなと思いました」

当初ピアスは紙でつくっていたので、素材を変えてアクリル板でつくってみたり、3Dプリンターを使ってアクリル樹脂でつくってみたりもしましたが、やはりアクセサリーなので金属がいいという結論に。そして、スタートアップを支援してくれる墨田区の板金屋さんと出会い、さまざまな金属で試作を行い、真鍮にたどり着いたといいます。

「実際の製品化にあたってはクラウドファンディングで資金を集めました。ありがたいことにわずか1日で目標金額を達成できて。このアイデアの可能性を感じたと同時に、『日本語のうつくしさを世界中に広める』という使命感をもつようになりましたね」

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アクセサリーのデザインは一つひとつ手書きで仕上げている

その後、周りからの要望やジュエリー職人との出会いもあり、最終的に第1弾の商品はシルバーでつくることになりました。しかし國廣さんはそれまでものづくりをした経験がなく、どのように発注したらいいのか、職人へ支払う相場観などももち合わせていなかったと当時を振り返ります。

はじめてアイデアを形にしてから第1弾の製品化まで2カ月。こうして2015年4月に、うつくしい日本語をさりげなく身にまとうことのできる“ひらがな”モチーフのアクセサリー「Hiragana」が誕生しました。

はじめての展示販売会

2015年11月には販路開拓のために展示会に参加。すると早速、百貨店のバイヤーから声がかかったそう。
「興味をもってもらえたんですが、私の価格設定が甘すぎて『それじゃ安すぎるよ』っていわれました(苦笑)。素材もゴールドにしたら? とアドバイスをもらって、再び商品の見直しが始まりました」

國廣さんは新たな職人さんを探すために、ジュエリー学校を訪問したり、いろんな人に会いました。
「自分の意向と職人さんの想いが合致するのがなかなか難しくて。それにすぐに大量発注できるか分からないので相手が会社では難しいし…。それでも最終的にはいい職人さんに出会うことができました」

こうして2016年2月にはじめて百貨店での展示販売会が実現しました。
「商品は用意できたんですが、販売のための什器を準備したり、何もかもはじめてで本当に大変でした。それまで販売員もしたことがなかったので、どうお客さんと接していいかも分かりませんでした」

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現在は販売開始から3年が経ち、商品ラインナップもピアスのほか、ネックレス、ブレスレット、リング、ピンバッチなどと増え、自社のオンラインショップも立ち上げ、現在も全国各地でイベント出店を行い、海外の店舗でも取り扱いがあるといいます。

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自分に正直に生きる

「最初のうちは毎日いろんな人から声がかかって、ありがたかったのですが、どれを真に受けていいのか迷ったり、自分が何をしたいのかもわからなくなるほど混乱したり、挑戦と失敗のくり返しでした。これは絶対うまくいく!と思って始めたことでしたが、最初は自分の給料をどう捻出するかなど毎晩眠れなくて、休みもなくて本当に大変でした。2年くらい頑張りすぎて疲れきって…最近ようやくマイペースにできるようになってきたかなという感じです」

籠中会の運営とロゴ制作の仕事に加え、Hiraganaの商品企画・販路開拓・イベント出店準備・在庫管理・ネットショップ対応…と山ほど仕事を抱える國廣さんがここまで頑張って来られた理由はどこにあるのでしょうか?

「気軽に考えていたからこそやれたのかもしれません。いまは自分の心のなかで思っていたことを実現できていて、自分に正直に生きられていることが良かったなと思っていますが、他の人には気軽にやってみなよとはいえませんね」

幼い頃から続けてきた書道を、自分にしかできない形で仕事にしている國廣さん。ここまでの道のりは、はじめての連続ばかりでその苦労は計り知れませんが、それでも自らのミッション「日本語のうつくしさを世界中に広める」を形にするために走り続けてきたその姿は、これから新しいことにチャレンジしようとしている人へ勇気を与えてくれるに違いありません。

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國廣 沙織(くにひろ さおり)さん

1985年、広島県生まれ。6 歳より書を始める。2011 年より” 書” を基盤として、国際交流活動を重ね、商業ロゴ制作、書籍題字、命名書、印鑑制作、書道 に関するワークショップの開催など活動中。http://www.saorikunihiro.com/

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(株)くらしさ 長谷川 浩史&梨紗

広告出版社を退職後、世界一周の旅へ。
海外で受け入れられている日本文化≒COOL JAPANと、
日本が学ぶべき海外の文化≒BOOM JAPANを発信しながら40ヵ国を巡る。
その後日本一周の旅へ。全国各地に根ざしたモノコトヒトを取材・発信する。
現在では、(株)くらしさを起ち上げ、
日本各地の「らしさ」を伝え、つないでいく活動に尽力している。

世界一周HP:www.cool-boom.jp   
日本一周HP:http://www.muji.net/lab/blog/caravan/   
くらしさHP:www.kurashisa.co.jp

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